大麻使用の危険性と有用性のバランス:無作為化対照試験と観察研究のメタ解析のアンブレラレビュー

BMJ, 382, e072348, 2023 Balancing Risks and Benefits of Cannabis Use: Umbrella Review of Meta-Analyses of Randomised Controlled Trials and Observational Studies. Solmi, M., De Toffol, M., Kim, J. Y., et al.

背景

大麻は精神的・身体的健康や安全運転に有害である可能性が示唆されているが,逆に,10年以上前,カンナビジオールは,治療抵抗性小児てんかんのような神経疾患の治療薬の候補とされた。更に,この物質が不安症や睡眠障害,更には精神病の補助治療薬として有用である可能性も提案されている。更に,大麻をベースとした薬物(すなわち,大麻成分を含む薬物)は,いくつかの異なる病態や症状に対する有力な治療法として研究されている。

本研究は,大麻,カンナビノイド,大麻ベースの医薬品とヒトの健康との関連性の広さ,質,信頼性,確実性を系統的に評価することを目的とした。

方法

ヒトにおける大麻及びカンナビノイドの使用に関連するあらゆる結果について報告している観察研究及び無作為化対照試験(RCT)のメタ解析のアンブレラレビューを行った。PubMed,Embase,PsycINFOを系統的に検索して抽出した文献を,データベース開設から2022年2月9日までスクリーニングした。

主要評価項目は,RCTのメタ解析における,標的症状(てんかん発作など)に対するカンナビノイドの効力と安全性とした。副次評価項目は,観察研究のメタ解析で報告された全ての転帰とした。

結果

101報がメタ解析に含まれた(観察研究50報,RCT 51報)。

RCTのメタ解析において,高~中程度の確実性で支持されたRCTで,大麻ベースの医薬品により,中枢神経系[等価オッズ比(eOR):2.84,95%信頼区間(CI):2.16-3.73)],心理的影響(eOR:3.07,95%CI:1.79-5.26),視覚(eOR:3.00,95%CI:1.79-5.03)に関する有害事象が増加し,嘔気・嘔吐,疼痛,痙縮は改善したが,精神医学的有害事象,消化器系有害事象,傾眠は増加した。カンナビジオールにより,発作(eOR:0.59,95%CI:0.38-0.92)及び発作イベント(eOR:0.59,95%CI:0.36-0.96)が50%減少したが,肺炎,消化器有害事象,傾眠は増加した。

慢性疼痛については,大麻ベースの医薬品またはカンナビノイドにより,様々な条件において,疼痛が30%減少した(eOR:0.59,95%CI:0.37-0.93)が,心理的苦痛は増加した。

てんかんの場合,カンナビジオールにより下痢のリスクが上昇し(eOR:2.25,95%CI:1.33-3.81),睡眠障害には影響がなかったが,発作の減少,全体的印象の改善,生活の質の向上については,中程度の確実性が示された。

一般集団において,大麻により陽性症状(eOR:5.21,95%CI:3.36-8.01),総精神症状(eOR:7.49,95%CI:5.31-10.42),陰性症状,認知機能が悪化した。

大麻ベースの医薬品,大麻,カンナビノイドは,様々な条件において忍容性が低い結果となった。

観察研究のメタ解析において,妊婦ではマリファナ使用と在胎不当過小(eOR:1.61,95%CI:1.41-1.83)及び低出生体重(eOR:1.43,95%CI:1.27-1.62)との関連(図),運転者ではテトラヒドロカンナビノール陽性と自動車事故(eOR:1.27,95%CI:1.21-1.34)との関連(図),一般集団ではカンナビノイドと精神病(eOR:1.71,95%CI:1.47-2.00)との関連が認められた。更に,新生児の転帰,自動車事故に関する転帰,一般集団における精神病症状・自殺企図・うつ病・躁病などの転帰,健康な大麻使用者における認知機能障害についても有害な影響が認められた。

結論

大麻の使用は,精神衛生や認知機能の低下と関連し,交通事故のリスクを高め,妊娠中に使用すると子どもに悪影響を及ぼすおそれがあることを裏付ける,説得力のある証拠が示唆された。

図.主解析または感度分析において、説得力のある、または非常に示唆に富む、または示唆に富むエビデンスによって支持された、妊婦・運転者・精神病患者における大麻と転帰との観察的メタ解析による関連

264号(No.6)2024年2月9日公開

(大谷 愛)

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