【テーマ:COVID-19と自殺念慮②】
新型コロナウイルス感染症パンデミック中の自殺念慮の有症率及び相関する危険因子:31ヶ国113研究のメタ解析

J PSYCHIATR RES, 166, 147-168, 2023 Prevalence of Suicidal Ideation and Correlated Risk Factors During the COVID-19 Pandemic: A Meta-Analysis of 113 Studies from 31 Countries. Du, W., Jia, Y. J., Hu, F. H., et al.

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(2020~2023年)中の自殺念慮に関する更新された研究が増加したことを踏まえ,本研究は,パンデミック中の自殺念慮の有症率と,相関する危険因子の更新情報とを明らかにすることを目的とした。

方法

文献検索にはPubMedとWeb of Science(WOS)を使用した。PubMedで,MeSH用語の「自殺念慮(suicidal ideation)」と「COVID-19」を用いて主観的単語を検索し,その類義語を用いてWOSを検索した。より多くの研究を抽出するため,主観的単語である「自殺(suicide)」も用いた。

結果

検索により同定された文献から,不適格,または定量的データを欠いた研究を除外した132報の研究が対象となり,このうち113報がメタ解析に組み込まれた。

COVID-19パンデミック中の一般人口における自殺念慮の有症率は約14.7%[95%信頼区間(CI):12.5-16.8,p<0.01]であった。サブグループ解析の結果,有症率は青年期では約22.4%(95%CI:17.1-27.8,p<0.01),精神障害の患者では約21.0%(95%CI:12.8-29.2,p<0.01),大学生では約20.6%(95%CI:18.7-22.5,p<0.01),若年成人では約18.9%(95%CI:8.3-29.5,p<0.01),COVID-19患者では約10.6%(95%CI:1.0-20.2,p=0.031),医療従事者では約7.4%(95%CI:4.3-10.5,p<0.01)であった。地域別に見ると,北米は約16.0%(95%CI:13.6-18.4,p<0.001),アジアは約14.5%(95%CI:9.5-19.4,p<0.001),欧州は約10.5%(95%CI:8.5-12.4,p<0.001),南米は約20.5%(95%CI:19.5-21.5,p<0.001)であった。

自殺念慮に関連があることが示唆された危険因子は,重度の不安症状,軽度~中等度の抑うつ,強い孤独・社会的孤立感,低い質の睡眠,COVID-19関連の経験,検疫またはロックダウンの経験,女性であること,独身または離婚者,金銭的な問題,自殺念慮・自殺企図の既往歴であった。

考察と結論

本研究の限界として,英語の研究に限られていること,ロックダウンの期間が異なること,サブグループ解析しかできなかった対象があること,危険因子について定量的データが不足していること,各因子の経時的因果関係が不明であることが挙げられる。

パンデミックの拡大と進行に伴い,自殺念慮の有症率はパンデミック前に比し有意に上昇したことが示された。重度の精神的健康障害,COVID-19関連の経験,社会人口統計学的特徴が自殺念慮に関連している可能性がある。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(久江 洋企)

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