クロザピン治療を受けている治療抵抗性統合失調症患者における喫煙習慣とバルプロ酸の併用が再燃に及ぼす影響:1年間の後方視的コホート研究

ACTA PSYCHIATR SCAND, 148, 437-446, 2023 Effect of Smoking Habits and Concomitant Valproic Acid Use on Relapse in Patients With Treatment-Resistant Schizophrenia Receiving Clozapine: A 1-Year Retrospective Cohort Study. Tsukahara, M., So, R., Yoshimura, Y., et al.

はじめに

クロザピンは治療抵抗性統合失調症(TRS)に対するゴールドスタンダードであるが,クロザピンを投与されたTRS患者の再燃率は20~40%と比較的高い。再燃を予防するためには,クロザピンの血中濃度を適切に維持することが重要である。

喫煙はクロザピンの血中濃度を低下させる。更に,バルプロ酸(VPA)が喫煙の作用を増強する可能性がある。

そこで著者らは,クロザピン投与中のTRS患者において,喫煙習慣とVPA併用が再燃に及ぼす影響を検討するため,後方視的コホート研究を実施した。

方法

クロザピンを投与されているTRS患者において,喫煙習慣とVPAの併用が退院後1年間の再燃に及ぼす影響について検討した。

対象患者の組み入れ基準は,①15~64歳,②TRSの診断,③入院中にクロザピンの投与を開始し,2012年4月~2021年1月の間に研究実施病院を退院し,④入院と同じ施設で外来治療を受けていることとした。

退院時の臨床人口統計学的データは,医療記録から,または担当精神科医に連絡することにより収集した。エンドポイントは,1年間の観察期間の終了または再燃の発生と定義した。

主要転帰は,喫煙習慣とVPA併用が退院後1年間の再燃に及ぼす影響とした。副次転帰は,喫煙習慣とVPA併用との潜在的相互作用とした。再燃の定義は,精神医学的増悪による再入院とした。

喫煙習慣とVPAの併用に基づき,患者を四つのサブグループに分類した。Cox比例ハザードモデルを用いて,喫煙習慣とVPAの併用(独立変数)が再燃(従属変数)に及ぼす影響を評価した。喫煙習慣と VPA 併用との相互作用の可能性を検討するため,喫煙患者と非喫煙患者,VPA 併用患者と非併用患者を層別化して,サブグループ解析を実施した。

結果

合計192名の患者が組み入れられた。年齢の中央値は36.0歳,男性106名(55.2%),喫煙者81名(42.2%)であった。47名(25.5%)がVPAを併用し,うち18名(9.4%)が喫煙していた。

合計69名[35.9%,95%信頼区間(CI):29.6-43.2%]が退院後の1年間に再燃の定義を満たした。

多変量Cox比例ハザード回帰分析では,喫煙習慣が再燃のリスクを独立して上昇させることが示された[調整ハザード比(aHR):2.27,95%CI:1.28-4.01;p<0.01]。喫煙習慣で層別化したサブグループ解析では,VPAの併用により喫煙患者では再燃リスクが上昇したが(aHR:3.87,95%CI:1.72-8.70;p<0.01),非喫煙患者では再燃リスクは上昇しなかった(aHR:0.77,95%CI:0.31-1.88;p=0.56)。VPAの併用で層別化したサブグループ解析では,喫煙習慣によりVPAの併用患者における再燃リスクが上昇したが(aHR:5.32,95%CI:1.68-16.9;p<0.01),VPAの併用がない患者では上昇しなかった(aHR:1.41,95%CI:0.73-2.70;p=0.30)。

主な研究結果は以下の通りである。すなわち,①患者の約35%が退院後1年間に再燃を経験した,②喫煙習慣は単独で再燃リスクを上昇させたが,喫煙習慣とVPA併用との間に再燃リスクに関する有意な相互作用が認められた,③喫煙による再燃への影響はVPA併用により増強された,④喫煙習慣とVPA併用の両方を有する患者の再燃リスクは,どちらも有さない患者の約5倍であった。

結論

クロザピンを投与されているTRS患者では,VPAの併用により喫煙習慣が再燃に及ぼす影響が増強された。患者の喫煙行動に注意を払い,喫煙者へのVPA処方を避けることは,再燃リスクの軽減に役立つ可能性がある。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(野村 信行)

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