統合失調症患者における作動記憶中の脳活動と実社会機能に対する抗コリン負荷の影響

SCHIZOPHR RES, 260, 76-84, 2023 Effect of Anticholinergic Burden on Brain Activity During Working Memory and Real-World Functioning in Patients With Schizophrenia. Selvaggi, P., Fazio, L., Toro, V. D., et al.

背景

認知機能障害は統合失調症の主たる病態の一部である。統合失調症における認知機能障害は実社会での機能障害に大きく影響しているが,認知機能トレーニングの効果は小さく,確立された薬物療法もない。統合失調症における認知機能障害では作動記憶タスク中の脳活動の異常が報告されており,前頭前野の活動と作動記憶能力の生理的な逆U字関係が保たれていないことがわかっている。

近年,一般人口における抗コリン薬による認知機能低下や認知症リスクの上昇が注目されている。統合失調症患者は直接的に抗コリン薬を服薬している場合があることに加えて,抗精神病薬や抗うつ薬が持つ抗コリン作用にも曝露されている。

これまでの研究で抗コリン作用の認知機能や社会機能への悪影響が示唆されているが,抗コリン負荷の脳活動への影響はあまり知られていない。本研究では,抗コリン負荷と作動記憶タスクにおける脳活動の関連について検討する。

方法

本研究には精神病の研究のためのイタリアンネットワーク(NIRP)の7施設から計100名の統合失調症患者が組み入れられた。神経画像機能解析が可能な機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)データは31名の患者から得られた。

MRI撮像は3Tスキャナーで行った。fMRI中の作動記憶テストとして,患者にN-Back(2-Back)テストを施行した。抗コリン負荷の評価にはAnticholinergic Cognitive Burden(ACB)尺度を使用した。ACB尺度は各薬剤の抗コリン作用の程度に応じて0~3(0:抗コリン作用なし,3:強い抗コリン作用)の評点で評価を行うもので,本研究ではACB合計評点が0~2を低ACB群,3≧を高ACB群とした。実社会機能は特定機能レベル尺度(Specific Level of Function Scale:SLOF)で評価した。SLOFに含まれるドメインは,身体機能,セルフケア技能,対人関係,社会的受容性,地域生活,仕事である。加えて,精神症状は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)で評価し,抗精神病薬量はクロルプロマジン等価換算を行った。

結果

高ACB群では 低ACB群と比較し,PANSS総評点とクロルプロマジン等価換算量が高かった(p=0.04)ことから,これらを解析の共変量に含めた。

fMRIでは,高ACB群では低ACB群と比較し,右背外側前頭前野(DLPFC)と左補足運動野を含む作動記憶ネットワークの活動が低かった(TFCE 補正済p<0.05)。

作動記憶テストは,高 ACB群で低 ACB群と比較し正確性が低く(p=0.049),反応時間に関しては差がなかった(p=0.4)。

実社会機能に関しては,高ACB群が低ACB群に比較しSLOF評点が低く(p=0.03),特に,対人関係(p=0.04),地域生活(p=0.01),仕事(p<0.01)の評点が低かった。前頭前野の脳活動にはSLOF評点と負の相関が見られた(rho=0.35,p=0.05)。

考察

本研究では,抗コリン負荷の高い患者で前頭頭頂葉の活動が低く,作動記憶能力も低いことがわかった。加えて,高ACBが社会機能(対人関係,地域生活,仕事)の低下と関連していることがわかった。

本研究は,統合失調症において抗コリン薬が認知機能へ悪影響があることを改めて示したことに加えて,脳活動との関連もあることを明らかにした。実臨床の治療選択においても認知機能や社会機能へ配慮して,抗コリン負荷について考慮することが望ましい。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(岩田 祐輔)

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