統合失調症患者におけるがん死亡/罹患比:2000~2019年の台湾全域におけるコホート研究

ACTA PSYCHIATR SCAND, 148, 347-358, 2023 Unfavorable Cancer Mortality-to-Incidence Ratios in Patients With Schizophrenia: A Nationwide Cohort Study in Taiwan, 2000–2019. Cheng, C.-S., Chen, W.-Y., Chang, H.-M., et al.

背景と目的

統合失調症患者の平均余命は一般人口に比較して14.5年短いとされており,その原因は死亡率の高さにあると考えられる。この不均衡を解消するためには,統合失調症患者と一般人口の間に存在する,予防と治療における格差を減らす必要がある。統合失調症患者の未診断及び未治療のがんには,研究対象として関心が集まっている。

数十年前に行われたいくつかの研究では,統合失調症とがん罹患率低下との関連が示された。しかし,近年の研究では,統合失調症とがんには一貫した関連は示されておらず,統合失調症患者でがん罹患率が高いとする研究もあれば,差がないとする研究,低いとする研究もある。この違いは,研究方法及び部位特異的がんの危険因子の違いに起因する可能性がある。

本研究は,台湾の健康保険データベースを利用した,台湾全域の後方視的コホート研究であり,統合失調症患者と一般人口におけるがんケアの不均衡を明らかにすることを目的とする。そのために,がん罹患率,がん死亡率,がん死亡/罹患比(MIR)の評価を行う。

方法

台湾では単一支払者制の公的健康保険制度が1995年3月1日に採用され,全人口約2,300万人の99.9%が加入している。この健康保険のデータを研究に用いた。

2000年1月1日から2019年12月31日までにICD-9-CMの295もしくはICD-10-CMのF20と診断された患者を対象とした。気分障害と診断された患者,統合失調症の診断以前にがんと診断された患者,性別や年齢の情報がない患者は除外した。

結果

107,481名の統合失調症患者が対象となり,うち3,881名が対象期間中にがんを発症した。

全体的ながんの罹患は統合失調症患者群で有意に低かった[標準化罹患比(SIR):0.94,95%信頼区間(CI):0.91-0.97,p<0.001]。統合失調症患者群では,結腸直腸,肺,腎臓,皮膚,甲状腺,前立腺のがん罹患率が低い一方(肺がんp<0.05を除き,全てp<0.001),下咽頭,食道,子宮がんの罹患率が一般人口に比較して高かった(全てp<0.01)。

がんによる死亡率は,統合失調症患者群で有意に高かった[死亡率比(MRR):1.30,95%CI:1.24-1.37,p<0.001]。全てのがんによるMIRも統合失調症患者群で有意に高かった(相対MIR:1.38,95%CI:1.32-1.45)。部位別で統合失調症患者群のMIRが一般人口に比較し高かったのは,口腔がん(相対MIR:1.44,95%CI:1.16-1.77),鼻咽頭がん(相対MIR:1.74,95%CI:1.24-2.44),胃がん(相対MIR:1.29,95%CI:1.05-1.58),結腸直腸がん(相対MIR:1.50,95%CI:1.31-1.72),喉頭がん(相対MIR:2.64,95%CI:1.46-4.80),肺がん(相対MIR:1.20,95%CI:1.07-1.35),乳がん(相対MIR:2.59,95%CI:2.12-3.15),子宮頸部がん(相対MIR:2.33,95%CI:1.66-3.26),卵巣がん(相対MIR:1.84,95%CI:1.26-2.70),膀胱がん(相対MIR:1.54,95%CI:1.10-2.14)であった(全てp<0.05)。

考察

本研究では,統合失調症患者と一般人口間のがんケアの不均衡を評価するためにMIRを用いた。がん全体及び上記の部位別がんにおいて,統合失調症患者の相対MIRが高かったことは,一般人口との間に,がんケアの不均衡が存在することを示している。これは患者側,治療者側それぞれの要因により,がんの診断が遅れたり,治療が不十分になったりすることが原因と思われる。患者側の要因としては,がんのスクリーニング検査を受ける率が低いこと,身体症状への自己評価が不十分なこと,経済的問題,精神症状が原因でコミュニケーションが十分に取れないことが挙げられる。治療者側の要因としては,統合失調症患者の治療にあたる精神科医が,併存する身体疾患の診断と治療が不得手であること,精神疾患に対する医師の偏見により,精神疾患患者の身体症状の評価や検査に消極的になることが挙げられる。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(真鍋 淳)

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