うつ病に対するpsilocybin単回投与療法:無作為化臨床試験

JAMA, 330, 843-853, 2023 Single-Dose Psilocybin Treatment for Major Depressive Disorder: A Randomized Clinical Trial. Raison, C. L., Sanacora, G., Woolley, J., et al.

背景

うつ病(MDD)に対して現在承認されている薬物療法の限界が明らかになってきていることや,サイケデリックス(精神展開剤)に分類されるpsilocybin*の迅速かつ長期に持続する抗うつ効果が最近の研究で示唆されていることから,psilocybinへの関心が近年高まっている。しかし,これまでの研究では,サンプルサイズ,盲検化,比較対象,有害事象の評価などの限界があることが指摘されている。

そこで本研究では,無作為化多盲検デザインを用いた第Ⅱ相試験で,6週間にわたりpsilocybin単回投与における抗うつ効果の発現時期,持続性,安全性を検討した。

方法

本研究は2019年12月~2022年6月に米国の11の研究施設で実施された。組み入れ基準は,21~65歳の成人で,DSM-5でMDDと診断され,現在の抑うつエピソードが60日以上あること,モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)28点以上で,適応があれば精神科治療薬の漸減が可能な7~35日間のスクリーニング期間にMADRSの評点の改善が30%以下であることとした。除外基準には,精神病性障害または躁病の既往,現在の薬物使用障害,現在の切迫した自殺念慮が含まれた。

合成psilocybin 25mg,または急性の紅潮反応を引き起こす活性プラセボとしてナイアシン100mgの単回投与の2群に無作為に参加者を割り付けた。なお,参加者,試験機関関係者,治験依頼者,評価者,統計担当者は盲検化された。また,両群に心理的支援を行い,投与前に2名のファシリテーターとの6~8時間の準備セッション,同じファシリテーターの監督下での7~10時間の投与セッション,投与後に投与に伴う体験についてファシリテーターと話し合う4時間の統合セッションを実施した。

主要転帰は基準時点から43日までのMADRS評点の変化とし,副次転帰は基準時点から8日までのMADRS評点の変化,43日までのシーハン障害尺度(Sheehan Disability Scale:SDS)評点の変化,持続的な治療反応及び寛解率とした。

結果

合計104名の参加者[平均41.1±11.3歳,女性52名(50%)]が,psilocybin群(51名)とナイアシン群(53名)に割り付けられた。

主要転帰である43日目のMADRS評点の変化は,psilocybin群がナイアシン群より有意に大きかった[群間平均差=-12.3,95%信頼区間(CI):-17.5--7.2,p<0.001]。また,8日目のMADRS評点の変化(群間平均差=-12.0,95%CI:-16.6--7.4,p<0.001)及び43日目のSDS評点の変化(群間平均差=-2.31,95%CI:-3.50--1.11,p<0.001)も,psilocybin群がナイアシン群より有意に大きかった。Psilocybin群はナイアシン群よりも持続的な治療反応を示す割合が有意に高かった[20/48名(42%) vs 5/44名(11%),補正絶対差=30.3%,95%CI:13.5-47.1,p=0.002;オッズ比(OR)=5.6,95%CI:1.9-16.7]。持続寛解率もpsilocybin群の方が高かったが,ナイアシン群との差は統計学的に有意ではなかった[psilocybin群12/48名(25%) vs ナイアシン群4/44名(9.1%),補正絶対差=15.9,95%CI:1.0-30.8,p=0.05;OR=3.4,95%CI:1.0-11.5]。

試験期間中のあらゆる有害事象の割合はpsilocybin群[44/50(88%)]がナイアシン群[33/54(61%)]よりも高かったが,規定に基づき報告された有害事象の多くは軽度であった。また,投与9日目までの重度の関連有害事象は,psilocybin群では4名(片頭痛1名,頭痛1名,錯覚1名,パニック発作及び妄想1名)に対し,ナイアシン群では0名であった。重篤な治療起因性の有害事象は見られなかった。

結論

6週間の多盲検無作為化試験において,心理的支援と併用したpsilocybin 25mgの単回投与は,活性プラセボと比較して,抗うつ効果が迅速かつ持続的に認められ,機能障害の改善も認められた。治療に起因する重篤な有害事象は認められなかった。

本知見は,psilocybinがMDDに対する有望な介入であるというエビデンスを高めるものであろう。

*日本国内では未発売

265号(No.1)2024年4月11日公開

(谷 英明)

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