うつ病の異質性への遺伝的寄与:スウェーデンの国民登録データを用いた同胞ベースデザイン研究からのエビデンス

AM J PSYCHIATRY, 180, 714-722, 2023 Genetic Contribution to the Heterogeneity of Major Depressive Disorder: Evidence From a Sibling-Based Design Using Swedish National Registers. Nguyen, T.-D., Kowalec, K., Pasman, J., et al.

背景

うつ病(MDD)は異質性が高い精神疾患である。標準的な類型学は,MDDの症状の異質性を部分的には捉えているが,それが病因学的な異質性を十分に捉えているかどうかは不明である。また,MDDの遺伝的異質性の理解も進みつつあるが,いまだにMDDの遺伝的異質性の知見は一貫していない。そこで,本研究は,MDDの遺伝的異質性のエビデンスを更に検証することを目的とした。

方法

本研究では,2013年12月31日までのスウェーデンの国民登録データを利用して,1977~1993年の出生者のデータを抽出し,このうち研究期間である1997~2013年において,4~36歳でMDDと診断された者を追跡した。その中から,10歳以内の年齢差である同父母の同胞と異父の同胞を比較した。

これらの個人データを用いて,重症度(重度 vs 軽度/中等度),再発の有無,不安症の併存の有無,他の精神障害の併存の有無,自殺傾向の有無,MDDによる傷病手当金受給の有無,MDDによる早期退職給付金受給の有無(障害の有無の指標),治療環境(入院 vs 外来),診断時の年齢(若年発症 vs 成人発症),という九つの臨床的特徴に基づいて定義した18のサブグループに分類した。

MDDのサブグループ間での遺伝的要素を比較検証するために,構造方程式モデリングを用いて,サブグループ間の遺伝率(h2)と遺伝的相関(rg)を推定した。更に,本研究の結果と,英国のゲノムデータを用いた先行研究(英国バイオバンク研究)との結果を比較検証した。

結果

1977~1993年にスウェーデンに生まれた1,500,713名から,本研究では最終的なサンプルに838,990名が組み込まれ,これには419,495組の同胞ペアが含まれた(395,531組は同父母の同胞,23,964組は異父の同胞)。この中で,46,255名がMDDと診断され,診断時の平均年齢は23.2歳であった。

h2の推定値はサブグループ全体で30.5~58.3%でありった。その中で,MDDによる早期退職給付金を受給した(障害があった)サブグループのh2[58.3%,95%信頼区間(CI):51.4-65.2]と若年発症のサブグループのh2(55.1%,95%CI:51.2-59.0)は,MDDサンプル全体(45.3%,95%CI:43.0-47.5)よりも有意に高く,単一エピソードのサブグループのh2(34.4%,95%CI:30.9-37.9)と不安症の併存がないサブグループのh2(32.2%,95%CI:28.7-35.7),他の精神障害の併存がないサブグループのh2(30.5%,95%CI:26.5-34.5)は有意に低かった。

また,九つの臨床的特徴に基づく比較群内のrgの推定値が最も低かったのは,診断時の年齢に基づくサブグループ間(つまり,若年発症vs 成人発症)で,rgは0.33(95%CI:0.26-0.41)であり,最も高かったのは不安症の併存の有無に基づくサブグループ間で,rgは0.90(95% CI:0.81–0.99)であった。九つの臨床的特徴に基づく比較群内のうち七つ(重症度と不安症の併存の有無の二つ以外)のrg値は1より有意に小さく,基盤となる遺伝因子の違いが示唆された。これらの結果は,英国バイオバンク研究とほぼ一致していた。

結論

本研究はMDDの遺伝的異質性と臨床的サブグループの病因理解に重要な知見を提供するものである。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(吉田 和生)

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