心的外傷後ストレス障害の治療における筆記曝露療法と持続曝露療法の比較:無作為化臨床試験

JAMA PSYCHIATRY, 80, 1093-1100, 2023 Written Exposure Therapy vs Prolonged Exposure Therapy in the Treatment of Posttraumatic Stress Disorder: A Randomized Clinical Trial. Sloan, D. M., Marx, B. P., Acierno, R., et al.

背景と目的

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対して最もエビデンスのある治療は持続曝露療法(PE)である。しかし,PEは十分な時間や費用,治療者の技能を必要とするため,治療を受ける機会が限られており,更に治療機会を得られたとしても35~50%は治療完遂前に脱落すると言われる。そのため,エビデンスがある治療であるにもかかわらず,実際の臨床ではそれほど実施されていない。

そこで近年,より簡易に実施できる筆記曝露療法(WET)が注目されている。本研究では,PTSDに罹患した退役軍人を対象に,WETのPEに対する無作為化非劣性試験を行った。

方法

2019年9月9日~2022年4月30日に,安定した薬物療法を施されているPTSDで通院中の退役軍人を組み入れた。自殺ハイリスク,重度の認知機能障害,重度の物質使用障害,精神病性障害,不安定な双極性障害の併存,なんらかの精神療法を現在実施中である者は除外した。

盲検化された評価者が,初回セッション前,10週後,20週後,30週後に,Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5(CAPS-5)尺度によりPTSDの重症度を評価した。

WETは週1回,通常5回,最大7回のセッションから成る。最初の3回のセッションでは心的外傷体験についての詳細及び体験中の感情や思考について,後の2回のセッションではその体験がその後の生活にどのような影響をもたらしているかに焦点を当てて筆記(30分間)させた後に,初回のセッションでは60分にわたってPTSD症状や治療の根拠に関する情報提供を行い,2回目以降のセッションでは45分間のフィードバックを行った。PEは週1回,最大15回のセッションから成り,各セッションは90分で,40分の想像曝露(苦痛が最も強い心的外傷記憶に焦点を当てる曝露)とセッション間の現実曝露(心的外傷と関連しており,これまで回避してきた人物・場所・状況への曝露)を行った。

20週後におけるCAPS-5尺度によるPTSDの重症度を転帰とし,2群間の得点差が10点未満の場合を非劣勢と定義した。加えて,各群の脱落率を比較した。

結果

178名が組み入れ基準を満たし,88名がWETに,90名がPEに無作為に割り付けられた。134名(75.3%)が男性,平均年齢は44.97歳であった。人種は37名(20.8%)が黒人,112名が白人(62.9%)で,民族は19名(10.7%)がヒスパニックであった。セッション数の平均値はPE群では12.48回,WET群では6.18回で,いずれの群でも20週の評価時点では治療を完遂していた。

いずれの評価時点でも,基準時点からの重症度の変化量は,WET群ではPE群に対して非劣性であった。特に10週時点では,WET群の方がPE群より平均変化量が2.42[95%信頼区間:0.35-1.46]大きく,やや症状の改善度が大きいことが示された。また,最終評価時にはどちらの群でも60%程度がPTSDの診断基準を満たしていた。

脱落率は,PE群で32名(35.6%),WET群で11名(12.5%)と,PE群の方が有意に高かった(χ2=12.91,p<0.001)。

考察

WETは従来のPEに比べて,治療効果は非劣性であり,脱落率が低かった。WETは従来の治療よりセッション数や曝露刺激が少なく簡便に実施できることから,治療の負担が少なく継続しやすい可能性がある。

ただし,本研究はCOVID-19のパンデミックの最中に行われたため,コロナ禍の死別体験や失職などが別のストレス因になっていた可能性がある。また,男性が多くを占める退役軍人での研究であるため,一般化するのは限界がある。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(荻野 宏行)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。