自殺企図のGWASメタ解析:自殺企図の12のゲノムワイド有意遺伝子座の同定と特定の健康因子に対する遺伝的リスクの影響

AM J PSYCHIATRY, 180, 723-738, 2023 GWAS Meta-Analysis of Suicide Attempt: Identification of 12 Genome-Wide Significant Loci and Implication of Genetic Risks for Specific Health Factors. Docherty, A. R., Mullins, N., Ashley-Koch, A. E., et al.

背景

2019年の世界中の死因においては自殺が70万人以上を占め,15~29歳の死因の第4位であった。また,自殺企図は精神疾患,生活の質の低下,心的外傷体験,社会的・経済的負担と強く関連しており,将来の自殺死の唯一最強の予測因子である。

双生児や家族研究による自殺念慮や自殺行動の遺伝率の推定値は30~55%であり,特定の一塩基多型(SNP)に特に自殺との強い関連が示唆された。これらの研究は,同時に自殺企図に共通する多様体遺伝的構造の複雑さを示しており,ゲノムワイド関連研究(GWAS)によって自殺の表現型に関連した,新規の再現可能なリスク遺伝子座を発見するためには,サンプルサイズが重要な役割を果たすことを示した。

本研究の目的は,国際自殺遺伝学コンソーシアム(ISGC)及びミリオン・ベテラン・プログラム(MVP)(合計958,896名;自殺企図及び自殺死43,871名)のメタ解析を行うことである。本研究ではGWASデータの多様性と一般化可能性を高めることを目的に,ISGCとMVPの全コホートを組み合わせることで,欧州系,アフリカ系,東アジア系混血のGWASメタ解析としてはこれまでで最大規模の解析が可能となった。また,全ての祖先混血集団に特有の遺伝子セットの同定と機能的追跡を行った。

方法

ISGCには,18のコホートからの自殺企図・自殺死の症例29,782名と対照519,961名が含まれている。MVPにおける自殺企図・自殺死の症例は退役軍人電子カルテシステムに自殺企図の病歴が記録されている退役軍人(14,089名)と定義し,対照群は退役軍人電子カルテシステムに自殺念慮や自殺行動の病歴が記録されていない退役軍人(395,064名)と定義した。

コホート間のサンプルの重複及び/または隠微な血縁関係は,メタ解析ツールを用いて評価し,補正した。

多祖先混血及び個体祖先混血の解析方法には,逆分散重み付け固定効果メタ解析,遺伝子,遺伝子セット,組織セット,薬物標的濃縮,及び脳発現定量的形質座位データを用いた要約データに基づくメンデル無作為化,表現域全体の遺伝相関,遺伝的因果割合解析などを用いた。

結果

本研究では,全体として22のコホートからの43,871名の自殺企図例と915,025名の対照群を含む,多祖先及び遺伝的混合グループが対象となり,解析の結果,自殺企図に関連する12の新しい遺伝子座が特定された。これらの遺伝子座は,ドパミンD2受容体,SLC6A9FURINなどの特定の遺伝子に関連するものであった。また,自殺企図のSNPベースの遺伝率(個々の遺伝的差異が自殺企図行動にどの程度影響を及ぼすか)は約5.7%と推定された。これは,自殺企図が特定の脳の変化や機能不全と関連していることを示唆している。また,一部の遺伝子多様体は特定の薬物標的との関連も示していた。これは将来的な治療法の開発に寄与する可能性を示す。更に,注意欠如・多動症や喫煙,リスク耐性といった他の健康因子と自殺行動に共通する遺伝的多様性も認められ,これらの因子が自殺企図に共通して影響を及ぼす可能性が示唆された。

結論

本研究では自殺企図に関する多祖先分析を行い,自殺企図に寄与するいくつかの遺伝子座を同定し,臨床的表現型と共通する遺伝的共変動を確立した。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(和田 真孝)

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