豪州及びアオテアロア・ニュージーランドにおけるクロザピン関連好中球減少症の疫学的調査:後方視的コホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 11, 27-35, 2024 Evaluating the Epidemiology of Clozapine-Associated Neutropenia Among People on Clozapine Across Australia and Aotearoa New Zealand: A Retrospective Cohort Study. Northwood, K., Myles, N., Clark, S. R., et al.

背景と目的

クロザピンは治療抵抗性統合失調症に対して最も効果的な抗精神病薬である。しかし,重篤な好中球減少症のリスクがあるために,多くの国で処方時の血液学的モニタリングが義務づけられている。

軽度の好中球減少症は一般人口でも比較的よく観察されるので,クロザピンが処方されている患者に見られる軽度の好中球減少症は,処方と無関係である可能性がある。また,好中球減少症のリスクは,本薬を処方された患者において他の因子によって媒介される可能性がある。本研究は,クロザピンに関連する好中球減少症の転帰の疫学と時期を明らかにし,好中球減少症のリスクに寄与する変数を調査し,本薬治療中の好中球減少症のリスクを明らかにすることを目的とした。

方法

豪州及びアオテアロア・ニュージーランドにおけるクロザピン患者モニタリングシステム(Central Portfolio Management System:CPMS)のデータを後方視的に調査した。調査対象期間は1990~2022年で,1990年以前に本剤を開始した患者,開始日から2週間以内に血液学的検査を受けなかった患者,追跡されなかった患者は解析から除外した。

CPMS登録時の患者の年齢・性別に加え,共変量として,クロザピン曝露歴,治療前の好中球数,クロザピンに関連しない好中球減少症などの既往を調査した。

好中球減少症の発症から6週間以内に投与中止に至った軽度の好中球減少症(好中球数:1,000〜1,500/μL)及び重篤な好中球減少症(好中球数:1,000/μL未満)の発症率を求め,好中球減少症が投与中止に至る可能性のオッズ比(OR)を算出した。投与中止に至った重篤な好中球減少症については,イベント発生までの時間を用いて週平均を算出し,Cox比例ハザードモデルとFine-Gray部分分布ハザード回帰モデルを用いて転帰の競合リスク分析を行った。本薬の使用歴に関する情報が得られたデータのサブセットについては,本薬への曝露歴のある参加者とない参加者について解析を行った。

結果

CPMSのデータに含まれていた26,630名[男性:66%,平均年齢:36.1歳(標準偏差13.7)],2,635,075回分の検体検査が対象となった。

1,146名(4.3%)に軽度の好中球減少症,313名(1.2%)に投与中止に至る重篤な好中球減少症,223名(0.8%)にクロザピンとは無関係の重篤な好中球減少症が認められた。

クロザピンの投与歴がある患者は,ない患者と比較して重篤な好中球減少症のリスクが低かった(OR 0.19,95%信頼区間:0.12-0.31,p<0.0001)。クロザピンの投与歴がない患者において,投与中止に至った重篤な好中球減少事象が発生するまでの期間の中央値は17週(四分位範囲 9.0~102.4)であった。同群において,投与中止に至った重篤な好中球減少症の累積発現率は18週時点で0.9%,2年時点で1.4%であり,週ごとの発現率は9週時点(0.128%)でピークに達し,2年時点では0.001%に低下した。軽度の好中球減少症については,累積発生率は18週で1.7%,2年時点で3.5%であり,週ごとの発生率は9週でピークに達し(0.218%),その後は2年時点では0.01%に低下した。

限界

本研究の限界としては,用いられたデータが研究を意図して作成されたものではないため,バイアスや交絡が生じやすく,データの管理が十分でないかもしれないことが挙げられる。また,クロザピン投与歴のない患者のデータは豪州のコホートからのものだけであることや,併用薬についての情報がないことも挙げられる。

結論

本薬の投与中止に至る重篤な好中球減少症のほとんどは投与開始18週以内に起こり,2年後には無視できる程度になる。クロザピン投与歴のない患者では,軽度の好中球減少症の60%以上は臨床的関連性が低いか,より重篤な好中球減少症に進行しなかったことが示された。また,投与開始後の18週以降の週1回の血液学的モニタリングは臨床的適応がない限り,安全に4週に1回に減らし,2年後に中止することが可能かもしれない。また,重篤な好中球減少症の閾値としては好中球数を1,000/μL未満とすることがより妥当である可能性がある。

266号(No.2)2024年7月1日公開

(内田 貴仁)

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