統合失調症スペクトラム障害の患者12,373名の全国コホートで判明した持効性注射剤抗精神病薬の有効性についての実臨床のデータ

MOL PSYCHIATRY, 28, 3709-3716, 2023 Real-World Effectiveness of Long-Acting Injectable Antipsychotic Treatments in a Nationwide Cohort of 12,373 Patients With Schizophrenia-Spectrum Disorders. Boyer, L., Falissard, B., Nuss, P., et al.

背景と目的

持効性注射剤(LAIs)は経口抗精神病薬に比べて統合失調症患者の入院率を低下させることがミラーイメージ研究のメタ解析により示されているが,ミラーイメージ研究は一般に研究対象の患者数が小さいという欠点がある。一方,全国コホートを用いた研究でも,やはりLAIsは,服薬アドヒアランスの上昇により統合失調症患者の臨床症状や生活の質(QOL)を改善する効果が示されているものの,LAIsを全患者に処方すべきなのか,それとも男性や,若年者や,アドヒアランスが不良な患者のような特定の集団に限って処方すべきなのかはわかっていない。

本研究では,ミラーイメージ研究と全国データベース研究の各々の長所を組み合わせ,LAIsの実臨床における有効性を評価した。

方法

2015年1月~2016年12月の間にLAIsを開始した統合失調症患者をフランス国民健康データシステムから組み入れた。LAIsの導入前の1年間(経口薬服薬中)と導入後の1年間で,医療資源の利用指標,具体的には精神科入院の回数や期間,精神科的理由での救急受診の回数を評価し,標準化平均差(SMD>0.1で臨床的に有意とする)を算出した。LAIsの有効性は,年齢,性別,経口薬に対するアドヒアランス(LAIs導入前の1年間に80%以上服薬した群を良好と定義)で層別化して分析した。

結果

456,003名の統合失調症患者のうち,組み入れ基準を満たした12,373名が本研究の対象となった。このうち,3,853名(31.1%)がアリピプラゾール,3,582名(29.0%)がパリペリドン,3,144名(25.4%)が第一世代抗精神病薬,1,794名(14.5%)がリスペリドンのLAIsを開始した。LAIsの使用は男性(58.1%),18~34歳の若年(42.0%),アドヒアランス不良群(63.7%)に多く,また全体の28%は入院中に導入されていた。

LAIs導入前の1年間と導入後の1年間を比較すると,精神科入院の回数の減少及び期間の短縮は,LAIs開始後に有意であったが,精神科救急受診回数の減少のSMDは有意ではなかった(図)。アドヒアランス不良群では,入院の回数(SMD:-0.19),入院期間(SMD:-0.26),精神科救急受診回数(SMD:-0.12)に有意な減少効果が認められた一方で,アドヒアランス良好群ではその差は有意ではなかった。

LAIsの種類別では,アドヒアランス不良群において,第一世代,パリペリドン,アリピプラゾールで入院回数の有意な減少(順にSMD:-0.20,-0.24,-0.21),入院期間の有意な短縮(順にSMD:-0.31,-0.30,-0.27),精神科救急受診回数の有意な減少(順にSMD:-0.15,-0.13,-0.15)が認められたが,リスペリドンでのみ入院期間の有意な短縮効果が認められなかった(ただし入院回数と精神科救急受診回数には減少が認められ,SMDはそれぞれ-0.23と-0.16であった)。一方,アドヒアランス良好群では,アリピプラゾールのみが入院回数の減少(SMD:-0.13)と関連していたが,リスペリドンとパリペリドンではむしろ入院期間の延長(順にSMD:0.15,0.17)に関連しており,精神科救急受診回数との関連はいずれの薬剤でも認められなかった。

全体では,年齢や性別に関係なく,LAIs開始後には精神科入院や精神科救急受診回数の減少が認められた。

考察

本研究は,ミラーイメージのデザインを全国データベースによる実臨床研究に応用した初の報告である。本研究から,アドヒアランス不良患者においては,女性や35歳以上であっても,LAIsが推奨されることが示唆される。LAIsは経口薬に比べて投与回数が少ないことから,アドヒアランスを改善し,再燃予防に寄与しているのかもしれない。一方,経口薬でのアドヒアランスが良好な患者であっても,アリピプラゾールのLAIs は有効な選択肢になるかもしれないが,今回他の種類のLAIsと結果に差が生じたことについては更なる研究が俟たれる。

図.特効型注射剤(LAIs)導入前の1年間と導入後の1年間における、精神科治療に関連した医療資源の利用率

266号(No.2)2024年7月1日公開

(荻野 宏行)

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