薬剤治療歴のない初回エピソード精神病における下垂体前葉ホルモンの血中濃度:系統的レビューとメタ解析

PSYCHONEUROENDOCRINOLOGY, 158, 106392, 2023 Blood Concentrations of Anterior Pituitary Hormones in Drug-Naïve People With First-Episode Psychosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cavaleri, D., Capogrosso, C. A., Guzzi, P., et al.

背景

統合失調症をはじめとする精神病の病態生理学的な研究の中で,下垂体ホルモンの異常は広く調べられてきている。特に,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),プロラクチン(PRL),甲状腺刺激ホルモン(TSH),卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体形成ホルモン(LH),成長ホルモン(GH)といった下垂体前葉ホルモンは注目を集めてきたが,PRLとTSH以外は系統的レビューが行われていない。本研究では,薬剤治療歴のない初回エピソード精神病の下垂体前葉ホルモンの血中濃度について,包括的な系統的レビューとメタ解析を行った。

方法

PRISMA 2020のガイドラインに従ってメタ解析を行った。Embase,MEDLINE,PsycInfoのデータベースから,初回エピソード精神病群を対象として,向精神薬与前ないしは投与後2週間未満の時期に下垂体前葉ホルモンを測定し,健常対照群と比較した,2022年9月20日までの研究を抽出した。

データの質が基準を満たすかどうかについては,年齢,性別,診断方法等の観点から,5名の著者が独立して検討した。

3報以上の研究でデータが得られたホルモンについては,ランダム効果メタ解析を行い,標準化平均差(SMD)を求めた。研究間の異質性の評価には,I2統計量を用いた。10報以上の研究から得られたデータに対してはランダム効果メタ回帰分析を行った。

結果

101の研究が候補となり,最終的にこのうち26の研究が基準を満たし,系統的レビューに組み込まれた。

初回エピソード精神病群で,健常対照群と比較して血中濃度が高かったのはACTH[研究数(k)=7,総サンプル数(N)=548;SMD=0.62,95%信頼区間(CI):0.29-0.94,p<0.001;I2=60.9%](図)及びPRL(k=17,N=1,757;SMD=0.85,95%CI:0.56-1.14,p<0.001;I2=85.5%)であり,また,血中濃度が低かったのはTSH(k=6,N=677;SMD=-0.34,95%CI:-0.54--0.14,p=0.001;I2=29.1%)であることが明らかとなった。ランダム効果メタ回帰分析では,初回エピソード精神病群において,PRL濃度に対し年齢(p=0.78),性別(p=0.21),症状の重症度(p=0.87)による調節効果は認められなかった。FSH,LH,GHに関するメタ解析は,研究数が少なかったために行うことができなかった。

考察

初回エピソード精神病にてACTH濃度の上昇が認められたことは,この群では視床下部‐下垂体‐副腎皮質(HPA)軸の過活動が認められるという仮説を支持するものである。しかし,本研究は縦断研究ではなく横断研究であるため,このHPA軸の過活動が精神病発症の結果であるのか,それとも発症前の環境刺激への生物学的脆弱性を表すものであるのかは明らかではない。

高プロラクチン血症が認められたことから,初回エピソード精神病では,抗精神病薬によるD2受容体遮断作用から独立してプロラクチンが上昇することが示された。過去の研究からは,プロラクチンの上昇はストレス反応とも関連付けられている。TSHの低下は,高コルチゾール血症の影響と考えられる。これらの下垂体前葉ホルモンの異常は,内分泌・代謝疾患や性機能障害に繋がる可能性があるため,統合失調症をはじめとする精神病の治療においては,この異常を考慮に入れる必要がある。

本メタ解析の限界としては,組み込まれた研究数が少ないことや,ホルモンの測定法,精神病未治療期間,臨床評価(体格指数,身体的合併症,喫煙,薬物使用など)の情報が不十分であることが挙げられる。しかし,本メタ解析からは,統合失調症をはじめとする精神病の発症初期には,下垂体前葉ホルモンの異常が認められることが明らかになった。

図.薬剤治療歴のない初回エピソード精神病と健常対照における副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)血中濃度の比較に関するメタ解析のフォレスト・プロット

266号(No.2)2024年7月1日公開

(船山 道隆)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。