統合失調症または双極性障害を持つ女性の小児期逆境体験と精神機能:全住民ベースの研究

BR J PSYCHIATRY, 224, 6-12, 2024 Adverse Childhood Experiences and Psychological Functioning Among Women With Schizophrenia or Bipolar Disorder: Population-Based Study. Köhler-Forsberg, O., Ge, F., Hauksdóttir, A., et al.

背景

近年,小児期逆境体験(Adverse childhood experiences:ACEs)は統合失調症及び双極性障害の発症に関連することが明らかになってきており,臨床経過の悪化や精神病症状の重症度,自殺念慮と関連していることも示されている。本研究では統合失調症または双極性障害の女性において,特定のACEsと統合失調症や双極性障害との関連があるかどうか,また,複数のACEsが不良な精神機能と関連しているかどうかを調査することを目的とした。

調査方法

アイスランドのStress-And-Gene-Analysis(SAGA)コホート研究の参加者を対象とした。このコホート研究は2018年にアイスランドに住んでいた18~69歳の女性を対象としている。29,367名(平均年齢44歳)を本研究に組み入れ,このうち534名(1.8%,平均年齢40歳)が統合失調症(108名)または双極性障害(479名)と診断された。それ以外の女性を参照群とした。

ACEsの評価は,世界保健機関(WHO)が開発したACE国際質問票(ACE-IQ)の修正版を用いた。参加者は18歳までに経験した13種類のACEsを回答した。

抑うつ症状は患者健康質問票(Patient Health Questionnaire:PHQ-9),不安症状はGeneralized Anxiety Disorder 7-item scale(GAD-7),睡眠障害はピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI),対処能力はConnor-Davidson レジリエンス尺度(CD-RISC-10)を用いて評価した。

補正Poisson回帰により,ACEsと重篤な精神障害の有病率(PR)を算出した。線形回帰により,重篤な精神障害を有する女性におけるACEsと精神機能との関連を評価した。

結果

重篤な精神障害を有する女性は,参照群と比較して,より若く,独身・寡婦が多く,学歴が低く,喫煙者が多く,収入が低く,体格指数(BMI)が高く,抑うつ症状・不安症状・睡眠症状の重症度が高く,対処能力が低かった。

また,重篤な精神障害を有する女性は,参照群と比較してACEs評点が高く[平均 4.57,標準偏差(SD)=2.82 vs 平均 2.51,SD=2.34],ACEsの報告頻度が高かった(5種類以上のACEsを報告した割合:48%vs 19%)。そして,ACEsの数が多いほど,重篤な精神障害のPRが上昇した[完全補正PR=ACEs当たり1.23,95%信頼区間(CI):1.20-1.27]。他のACEsで相互補正を行った後にも重篤な精神障害と関連していたACEs(PR,95%CI)は,心理的虐待(1.51,1.21-1.88),性的虐待(1.67,1.38-2.03),家庭内の精神疾患(1.90,1.56-2.31),感情的ネグレクト(1.32,1.07-1.64),いじめ(1.43,1.20-1.71),集団暴力(1.62,1.11-2.36)であった(図)。心理的虐待及び性的虐待との関連は,双極性障害よりも統合失調症でより顕著であった。

重篤な精神障害を有する女性では,ACEsの数が多いほど(≧5),睡眠の質の低下(β=0.83,95%CI:0.07-1.59)を含むうつ病(β=2.79,95%CI:1.19-4.38)と不安(β=2.04,95%CI:0.99-3.09)の症状負荷が大きくなった。統合失調症と双極性障害で分けて検討しても,結果は同様であった。

結論

統合失調症または双極性障害を有する女性はより多くのACEsを有し,ACEsの数がその重症度と関連することが示された。13種類のACEsのうち特に6種類が関連していた。また,これらが精神機能を阻害している可能性があるため,治療の一環としてトラウマに焦点を置いた精神療法を行うことなどにより,これらに対処する必要があると考えられる。

図.小児期逆境体験(ACEs)の種類と重篤な精神障害の存在との関連

266号(No.2)2024年7月1日公開

(佐久間 睦貴)

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