双極性障害における精神病の家族性リスクの性質

SCHIZOPHR BULL, 50, 157-165, 2024 The Nature of the Familial Risk for Psychosis in Bipolar Disorder. Kendler, K. S., Abrahamsson, L., Sundquist, J., et al.

背景と仮説

クレペリンが躁うつ病(Manic-Depressive illness)という新しいカテゴリーを記述した際,躁エピソード中に精神病症状が頻繁に見られることを指摘し,これは現代でも追試によって確認され,家族性であることが示唆されている。

しかし,双極性障害(BD)に関する家族性の易罹患性(familial liability)に関連する精神病傾向についての具体的な性質はよくわかっていない。そこで,本研究では,①BDの精神病に対する家族性の易罹患性は非特異的であり,全ての非器質性の主要精神疾患の精神病リスクを等しく上昇させる,②BDに関連する精神疾患の性質は,顕著な気分症状及びエピソード性の経過を特徴とする障害に対して,相対的に特異的である,③BDの精神病に対する家族性の易罹患性は,顕著な気分障害のない慢性精神病性障害,特に統合失調症(SZ)に特異的である,という三つの仮説を形成した。

これらの仮説を検証するため,スウェーデンにおいて,両親が揃っている家族から生まれた子どもを対象に,親がBDである子どもの七つの精神病性障害[精神病性うつ病(PMD),精神病性双極性障害(PBD),統合失調感情障害(SAD),急性精神病,その他特定不能の精神病(NOS),妄想性障害(DD),SZ]のリスクを調査した。障害には,①精神病を伴う気分障害,②顕著な気分症状を伴い,及び/あるいはエピソード性の経過をとるその他の精神病,③慢性の非感情精神病性症候群が含まれる。また,躁状態の発症年齢(AAO)が早いと精神病症状の発現率が高いというエビデンスがあることから,著者らの主要な結果を再現する試みとして,BDの親におけるAAOと,その子どもにおける上述の七つの精神病性障害のリスクとの関係を検討した。

方法

1980~1996年にスウェーデンで生まれ,0~15歳に実父母と同じ家庭で生活した全ての個人を対象として,出生時の性別・人種の情報を含む登録簿から情報を収集した。両親のBDの診断,子どもの七つの精神障害については,スウェーデンの退院記録,外来診療記録,全国的なプライマリー・ケアのデータを調査した。

子どもの年齢を時間尺度とした多変量Cox比例ハザードモデルを用いて,親のBDの生涯診断が子どもにおける七つの精神障害のリスクに及ぼす影響を検討した。主要モデルには,父親と母親のBDの二つを独立変数として含めた。また,主要モデルに基づいて,父親の影響と母親の影響が等しいかどうかを検定した。

両親のBDのAAOの影響を調べるために,登録時のBD発症年齢を測定し,別の多変量Cox比例ハザードモデルを使用して調査した。また,子どものBDのAAOがPBDのリスクに及ぼす影響についても検討した。

結果

984,809名を調査したところ,調査時の子どもの平均年齢は約30歳,親は約60歳であった。七つの精神病性障害の有病率は,PBDで0.05%,NOSで0.33%であり,いずれも子どもにおいては比較的稀であった。三つの気分関連精神病症候群(PMD,PBD,SAD)は予想されたように女性に多く,他の全ての精神病性障害は男性が多かった。平均AAOは23〜26歳の狭い範囲であった。

多変量Cox比例ハザードモデルで評価したところ,親のBPが子どもにおける七つの精神病性障害に及ぼす影響のHR(95%CI)は,PMDで2.98(2.38-3.72),PBDで4.49(3.21-6.29),SADで5.25(4.01-6.88),急性精神病で3.48(2.91-4.16),NOSで3.22(2.75-3.76),DDで2.19(1.49-3.22),SZで2.33(1.78-3.06)であり,多様であった。

父親と母親のBDについては,子どもにおける精神病性障害のHRに及ぼす影響は,父親よりも母親の方が大きかった。

BDの両親におけるAAOと,その子どもにおける七つの障害のリスクとの関係を検討した結果,先行研究と一致する結果が得られた。BDに罹患した子どもにおいて,発症年齢が低いほど,将来のPBDの診断と強く関連した(BDのAAOが5年低い場合,HR=3.00,95%CI:2.51-3.60,p<0.0001)。また,BDの親におけるBDの発症年齢が低いと,子どもにおいてPBDとSADのHRが上昇した。 

266号(No.2)2024年7月1日公開

(舘又 祐治)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。