若年成人のうつ病患者において,うつ病の重症度が抗うつ薬の増強療法に及ぼす影響

ACTA PSYCHIATR SCAND, 149, 41-51, 2024 Effect of Severity of Depression on Augmentation of Antidepressant Medication in Young Adults With Depression. Lampela, P., Tanskanen, A., Lähteenvuo, M., et al.

背景

うつ病に対しては抗うつ薬治療が第一選択として開始されることが多い。治療抵抗性うつ病(TRD)は,現在のエピソードにおいて,適切な量と期間の薬物療法を2回試みても反応しない場合と定義されることが多い。このような場合,別の種類の抗うつ薬,気分安定薬,ケタミン,甲状腺ホルモン,非定型抗精神病薬などを併用することで,抗うつ薬治療を増強することがある。

本研究では,若年成人において抗精神病薬(AP)による増強に影響を及ぼす因子(うつ病の重症度,最初の抗うつ薬を含む)と,どのAPが増強として開始されたかを検討した。

方法

本研究のコホートには,フィンランドの全国登録者から,2004~2017年の間に18~29歳でうつ病(国際疾病分類ICD-10 F32~F33)と診断された110,761名を組み入れた。研究集団を抗うつ薬の新規使用者に限定し,診断前の6ヶ月~診断後6ヶ月の期間に抗うつ薬の使用を開始し,この期間中に確認された初回使用時の過去6ヶ月間に抗うつ薬を使用していなかった52,855名とした。更に,診断時またはその後の180日間にうつ病の重症度が記録されている者に限定した。精神病性の特徴を伴う重症うつ病と診断された者は一次解析から除外して別々に解析し,最終的に10,478名が本研究の対象となった。

APによる増強は,抗うつ薬開始後から評価し,期間は診断前6ヶ月から診断後1年までの期間とした。増強の定義は,抗うつ薬とAPを91日以上併用したこととした。死亡,双極性障害/統合失調症スペクトラム障害の診断,2018年12月31日のデータ連結終了で追跡を打ち切った。

共変量の測定は診断日(年齢)または抗うつ薬開始日(残りの共変量)に行った。うつ病の重症度は共変量として用い,解析も重症度に基づいて層別化した。

記述統計は,割合と中央値,四分位範囲(IQR)で算出した。増強と関連する因子は,全ての共変量を補正したCox比例ハザードモデルで評価した。

結果

対象となった20,480名は,3分の2が女性であり,重症度が高いほど若年層の割合が高かった。

抗うつ薬新規使用者の8.4%がAP増強療法を開始した。増強療法を受けるリスクはうつ病の重症度と共に上昇し,軽度,中等度,重度のうつ病患者のそれぞれ3.9%,5.8%,14.0%が増強療法を受けていた。男性,併存する不安症やパーソナリティ障害,物質乱用,自傷や自殺企図は増強と正の相関を示した。

Citalopram*と比較して,三環系抗うつ薬(HR=2.36),パロキセチン(HR=1.50),ベンラファキシン(HR=1.23)の使用は増強のリスク上昇と関連していたが,bupropion*(HR=0.68)の使用はリスク低下と関連していた(図)。増強によく使用されたAPはクエチアピン(39.6%),リスペリドン(19.7%),オランザピン(17.9%)であった。

精神病性の特徴を有する重症うつ病患者では,セルトラリンの使用がAP増強と関連していたのに対し(aHR=1.31),fluoxetine*の使用は増強のリスクを低下させた(aHR=0.73)。

結論

抗うつ薬治療の増強として,APの使用は重症うつ病患者では一般的であった。最初の抗うつ薬として三環系抗うつ薬,パロキセチン,セルトラリン,ベンラファキシンを使用することは,citalopramと比較して増強の確率の増加と関連していた。初回の抗うつ薬としてbupropionを使用すると増強のリスクが低下する傾向があるが,その理由については今後の研究で検討されるべきである。

  • 日本国内では未発売
図.抗精神病薬の増強開始と関連する因子、Cox回帰モデルによる補正ハザード比(aHR)

266号(No.2)2024年7月1日公開

(内沼 虹衣菜)

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