精神病性うつ病に対する維持期抗精神病薬

ACTA PSYCHIATR SCAND, 149, 6-17, 2024 Antipsychotics in the Maintenance Phase for Psychotic Depression. Al-Wandi, A., Landén, M., Nordenskjöld, A.

背景

精神病性単極性うつ病の治療に際し,抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法は抗うつ薬単剤よりも優れているとされるが,根拠の信頼性は乏しい。特に維持療法に関する既存のデータは乏しく,系統的レビューでは単剤療法と併用療法の間に有意な差が認められなかった。抗精神病薬は多くの副作用が知られており,その併用が抗うつ薬単剤治療より優れているかどうかを決定するためには更なる調査が必要である。

目的

精神病性単極性うつ病患者において,抗うつ薬に抗精神病薬を併用した場合と併用しなかった場合を比較し,再入院や自殺との関連を検討する。

方法

スウェーデンの全国登録を用いて,2007年1月1日~2016年12月31日に診断を受けた精神病性単極性うつ病の入院患者を同定した。そのうち退院後14日以内に薬局で抗精神病薬と併用あるいは単剤で抗うつ薬を処方された患者を対象とし,2年間にわたって追跡した。主要転帰は,なんらかの精神障害または自殺企図による再入院,自殺完遂の中で最も早く生じたものとした。

データの解析にはCox回帰分析を使用し,因子として性別,年齢,過去の入院歴,併存疾患,電気痙攣療法(ECT),その他の薬物療法を用いて補正した。

退院後366日以降に併用療法を受けていた参加者が50.9%しかいなかったため,追跡期間を365日に短縮した感度分析を実施した。更に,残存症状の影響を排除するべく,診断前365日以内に治療歴がない参加者あるいは診断前に電気痙攣療法で寛解した参加者に限定した感度分析をそれぞれ実施し,また,急性期治療が不十分で早期再燃した患者を除外するために,入院日から9ヶ月後に生存していた患者に限定した感度分析も実施した。

結果

4,391名の参加者が同定され,そのうち2,972名が抗うつ薬+抗精神病薬併用療法群,1,419名が抗うつ薬単剤療法群であった。

1,777名(40.5%)が2年以内に再入院または自殺し,その割合は併用療法群(42.3%)が単剤療法群(36.6%)より有意に高かった(p<0.01)。最初のイベントの大部分は再入院であり,併用療法群(41.8%)が単剤療法群(35.9%)より有意に多かった(p<0.01)。一方で,自殺の割合は単剤療法群(0.8%)では併用療法群(0.5%)よりも高かったが,有意ではなかった(p=0.35)。他の原因で死亡した患者の割合は,併用療法群(3.5%)が単剤療法群(2.4%)よりも有意に高かった(p=0.04)。抗うつ薬単剤療法は,単変量解析[ハザード比(HR)=0.84,95%信頼区間(CI):0.76-0.93]及び多変量解析(HR=0.86,95%CI:0.77-0.95)の両方で転帰のリスク低下と関連していた。全ての感度分析で結果は同様であった。

考察

感度分析の結果より,適応症による交絡が抗精神病薬併用療法に不利な結果を導いたとは考えられなかった。

本研究の長所として,質の高い登録を用いたサンプルサイズの大きい研究であること,全ての感度分析で同様の傾向が認められたことにより,知見の妥当性が強化されていることが挙げられる。

本研究の限界としては,薬局の処方記録しか入手できなかったため,服薬率や入院中の薬物療法についての情報が得られなかったことが挙げられる。確実に服薬していた人に参加者を限定するという選択肢もあったが,これはバイアスをもたらす可能性があると考えられた。また,うつ病の再発リスクの高さに関連するとされる小児期の虐待歴も評価できておらず,その他の残留交絡の可能性も排除できない。

結論

本研究では精神病性単極性うつ病患者の維持療法として抗うつ薬の補助に抗精神病薬を追加することの利点は示されなかった。副作用が存在することや,有益性を支持するエビデンスがないことを考慮すると,精神病性単極性うつ病の維持期における抗精神病薬の効果については,更なる研究が早急に必要である。

266号(No.2)2024年7月1日公開

(下村 雄太郎)

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