周産期うつ病と死亡リスク:スウェーデンにおける全国規模研究

BMJ, 384, e075462, 2024 Perinatal Depression and Risk of Mortality: Nationwide, Register Based Study in Sweden. Hagatulah, N., Bränn, E., Oberg, A. S., et al.

背景

周産期うつ病は,妊娠中(分娩前うつ病)または分娩後数週間(分娩後うつ病)に発症するうつ病と定義され,妊産婦の約10~20%が罹患している。周産期精神障害のある女性では死亡リスクが高いことが報告されているが,周産期うつ病と死亡リスクとの関連に特化した検討は行われていない。

本研究では,周産期うつ病が専門的な治療を受けている,あるいは抗うつ薬によって治療されていることと,その後の死亡リスクとの関連を調査した。

方法

スウェーデンの全国的レジストリを活用して,全国的な人口に基づくマッチド・コホート研究を実施し,家族性の交絡を制御するため,更に同胞比較を行った。

2001~2017年の医療出生登録における全妊娠1,803,987件(1,041,419名の女性)の中から,1,029,215名における妊娠1,716,367件を同定した。このうち,周産期うつ病の診断を初めて受け,専門的な治療を受けている,あるいは抗うつ薬によって治療されている女性(指標女性)86,551名を特定した。これらの指標女性1名につき,周産期うつ病を発症していなかった女性10名を,年齢(±1歳)及び出産時の暦年が同じという条件でマッチさせて対照群とした(865,510名)。周産期うつ病の診断日またはマッチング日を指標日とした。これらの女性は,指標日または分娩日のいずれか遅い日から,国外移住(移住登録から指定),死亡,周産期うつ病の診断(対照群),2018年12月31日のいずれか早い日まで追跡した。

更に,同胞比較解析では,同父同母の姉妹がいて,かつ試験期間中に出産した全ての女性を組み入れ,最初の出産日から,国外移住,死亡,2018年12月31日のいずれか早い日まで追跡した。

また,医療出生登録における抗うつ薬の使用と処方薬登録における調剤を確認した。周産期うつ病の定義を満たす女性は,分娩前うつ病と分娩後うつ病に分類した。

主要転帰は,あらゆる原因による死亡とした。

結果

周産期うつ病の女性86,551名のうち,55%が分娩前うつ病,45%が分娩後うつ病であった。診断時の年齢中央値は31.0歳であった。

最長18年(中央値7.0年)の追跡期間中に確認された死亡は,周産期うつ病を有する女性では522例(1,000人‐年当たりの発生率0.82),周産期うつ病を有さない女性では1,568例(同0.26)であった。対照群の女性と比較して,周産期うつ病の女性は死亡リスクが3倍高かった[ハザード比(HR)3.26,95%信頼区間(CI):2.95-3.60]。同父同母姉妹間の死亡率を比較した場合も同様の関連が認められた(HR 2.12,95%CI:1.16-3.88)。

周産期うつ病に関連するリスクの上昇は,自然死(周産期うつ病の女性での発生率0.36;周産期うつ病のない女性に対して周産期うつ病を有する女性のHR 1.38,95%CI:1.16-1.64)よりも非自然死(同0.46;同HR 4.28,95%CI:3.44-5.32)の方が大きかった(図)。自殺は稀であったが(発生率0.23),自殺による死亡リスクの上昇が最も顕著であり(HR 6.34,95%CI:4.62-8.71),次いで事故による死亡(発生率0.12;HR 3.10,95%CI:2.06-4.66)であった。

結論

臨床的に周産期うつ病と診断された女性は,家族性因子とは無関係に死亡リスクが高い。この関連は,非自然死,特に自殺による死亡でより強い。周産期うつ病に罹患した女性,その家族,プライマリーケア・妊産婦ケア・メンタルケアに携わる医療専門家は,精神科既往歴にかかわらず,深刻な健康上のリスクがあることを認識する必要がある。

表.周産期うつ病に罹患した女性と、罹患していないマッチさせた対照群の女性における死因別死亡率のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)の比較

266号(No.2)2024年7月1日公開

(大谷 愛)

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