COVID-19パンデミック期間中に積極的な活動を行う機会:気分障害者の視点

J AFFECT DISORD, 345, 186-191, 2024 Opportunities to Engage in Positive Activities During the COVID-19 Pandemic: Perspectives of Individuals With Mood Disorders. Gordon-Smith, K., Hampshire, C., Mahoney, B., et al.

背景

2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの発生後に行われた横断研究では,精神疾患の既往がある人は,ない人に比べて,抑うつ・不安・ストレスのレベルが高く,パンデミックによってより大きな心理的な影響を受けたことが示唆されている。しかし,興味深いことに,気分障害を含む既存の精神疾患を持つ人を対象とした少数の縦断的研究から得られた知見では,パンデミック中に気分症状が有意に悪化することはなかった。しかし,気分障害者の視点から,精神的健康にプラスの影響を与え得る活動や生活の変化に関与する機会については,大規模なサンプルでは調査されていない。

方法

本調査の参加者は,国民保健サービス(NHS)や,Bipolar UKのような患者支援団体の広告を通じて,英国全土で募集した。参加条件は,①参加時18歳以上,②書面同意可能,③気分障害(DSM-IV)の基準を満たしていること,④65歳以前に気分症状を発症していること,とした。神経精神医学における臨床評価のための質問票(Schedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry)を用いた詳細な問診を行った。

2021年5月時点で,UK Bipolar Disorder Research Networkに参加している3,639名に対し,オンライン及び紙による調査を行った。この調査には,以下のようなリッカート尺度による質問を含めた。すなわち,①COVID-19のパンデミックによって,精神的健康にプラスになるような前向きな生活の変化があったかどうか,②パンデミック中に普段の対処戦略を実行した経験,③パンデミック前と比較したパンデミック中の前向きな活動への参加レベル,である。

結果

1,688名(46.4%)から回答があり,71.3%が女性で,年齢の中央値は59歳であった。診断は,双極性障害(BD)Ⅰ型が54.9%,双極性障害Ⅱ型が27.5%,統合失調感情障害双極型が2.5%,特定不能の双極性障害が3.3%,再発性うつ病(MDD)が11.8%であった。

全症例の61.9%が,パンデミックは精神衛生に有益な生活の変化をもたらしたと報告した(46.8%が「少し」,15.1%が「かなり」と報告)のに対し,31.1%がパンデミックは良い変化をもたらさなかったと報告した。BD患者は,MDD患者と比較して,肯定的な有益性を報告する傾向が有意に高かった(62.8% vs 55.1%,p=0.036)。

パンデミック中に,パンデミック前と比べて「より多く」または「同程度に」積極的に行った活動は,多い順に「気分変動を引き起こすようなイベントを避ける」(82.3%),「リラクゼーション法」(78.8%),「決まった日課を持つ」(69.4%),「十分な睡眠をとる」(67.7%),「外で過ごす」(63.5%),「体を動かす」(60.5%),「ボランティア活動」(59.1%),「その他の余暇活動」(57.5%),「宗教活動」(56.7%)であった。

結論

この知見は,パンデミック前と比較して,パンデミック期間中にBD患者やMDD患者の気分症状が有意に悪化することはなかったという,これまでの縦断研究を説明する一助になるかもしれない。精神的健康と対処行動の潜在的な促進因子を明らかにすることは,パンデミックが今後も継続する中で,気分障害患者に対する心理教育や自己管理プログラムの視点で重要である。

266号(No.2)2024年7月1日公開

(大谷 愛)

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