施設に入所しなかった反応性愛着障害の子どもにおける成人後の転帰

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 23m14994, 2023 Adult Outcomes of Children Wth Reactive Attachment Disorder in a Non-Institutionalized Sample. Betcher, H. K., Bommersbach, T. J., Perossa, B. A., et al.

はじめに

反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder:RAD)の長期転帰に関する知見は乏しく,特に施設に入所しなかった子どもについては知られていない。本研究で著者らは,RADと診断され,施設に入所しなかった子どもの自然経過を調査することによって,成人後までの転帰を明らかにすることを目的とした。

方法

米国・ミネソタ州オルムステッド郡の患者に関する医療記録から成るロチェスター疫学プロジェクトデータを使用した。データは2018年2~6月に収集し,2相の研究を行った。第1相では,小児期にICD-9またはICD-10におけるRADの診断基準を満たした症例の成人後までの転帰を調査した。第2相では,RAD患者のうちICD-10における注意欠如・多動症(ADHD)の併存者について症例対照研究を行った。

3~12歳時にRADと診断されており,組み入れ時に18歳以上であった者を検索した。検索基準に合致した79名のうち,RADについて「可能性あり」「過去の」「除外」などの記載があった30名を除外した49名を第1相の対象者とした。第2相では,49名のうちADHDと診断された34名を症例群とし,RADの既往のないADHD患者で,性別・年齢・人種をマッチングさせた102名を対照群とした。

結果

第1相では,小児期において49名のRAD患者に多く見られた併存症は,ADHD(73.5%),うつ病(51.0%),心的外傷後ストレス障害(PTSD;34.7%),反抗挑戦性障害(ODD;30.6%),不安・強迫症(不安・OCD;28.6%)であった。成人後では,州保険の利用者は65.3%,高校卒業者は34.7%,大学卒業者は2.0%,失業者は26.5%,過去か現在に法的問題を有する者は34.7%であった。成人後に精神医学的診断を下された者は73.5%,精神科病院に入院した者は71.4%であった。精神医学的診断の数は平均2.9(1~11)で,成人期に多く見られた併存症はうつ病(42.9%),不安・OCD(32.7%),ADHD(26.5%),PTSD(20.4%)であった。また,物質使用障害は42.9%,自殺企図は28.6%,自傷行為は40.8%に認められた。国による疾病管理を受けた者は69.4%,法的問題を有する者は34.7%であった。

第2相では,ADHDが併存しているRAD(RAD+ADHD)患者では,ADHDのみの患者と比較して,小児期に別の精神医学的診断(特にODD,不安・OCD,PTSD,衝動制御障害)を有する者が有意に多かった[オッズ比(OR)=3.3,95%信頼区間(CI):1.4-8.0,p=0.01]。成人後に精神医学的診断[PTSD,境界性パーソナリティ障害を含む]が追加される者も多かった(OR=3.0,95%CI:1.2-7.6,p=0.02)。RAD+ADHD患者ではADHDのみの患者に比し重症度は高く,精神科病院に入院した者も多かった(OR=6.4,95%CI:2.5-16.1,p<0.01)。更にRAD+ADHD患者では小児期・成人期において自殺企図(OR=7.5,95%CI:2.4-23.6,p<0.01),自傷行為(OR=22.6,95%CI:5.2-98.0,p<0.01)もより多く認められた。一方,物質使用障害や法的問題に関しては,RAD+ADHD患者がADHDのみの患者より多いとする十分なエビデンスは認められなかった。

考察と結論

本研究の限界として,医療記録による調査のため過小または過大評価の可能性があること,ADHDの症状とRAD及び心的外傷関連障害との間に重複があること,対象数が小さいこと,白人が大多数であることが挙げられる。

本研究で示された結果から,RADの子どもではADHDの併存が多く認められるが,ADHDに関連する機能障害を上回る精神医学的併存症を成人後まで抱えていることが多く,心理社会的機能が低下していることが示唆される。 

266号(No.2)2024年7月1日公開

(久江 洋企)

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