幼少期の逆境体験と感情的ウェルビーイング及び学業成績との関連:レビューとメタ解析

J AFFECT DISORD, 347, 387-398, 2024 Associations of Childhood Adversity With Emotional Well-Being and Educational Achievement: A Review and Meta-Analysis. Yeo, G., Lansford, J. E., Hirshberg, M. J., et at.

背景と目的

虐待などの幼少期の逆境体験が,健康,ウェルビーイング,学業成績に与える負の影響が,公衆衛生上の問題として浮上している。幼少期の逆境体験が,病気,早期死亡,メンタルヘルスの悪化,人生の満足度の低下と関連しているという先行研究がある。幼少期の逆境体験とは,18歳までの間に経験する心的外傷体験のことで,具体的には虐待,ネグレクト,ストレスの強い家庭やコミュニティで育つこととされる。

方法

本研究の組み入れ基準に合致し,176のエフェクトサイズが含まれる100の研究を解析の対象とし,系統的レビューとメタ解析を行った。

仮説1a:幼少期の逆境体験が感情的ウェルビーイングに悪影響を与える,仮説1b:同じく学業成績に悪影響を与える,研究疑問1:幼少期の逆境体験が与える影響は,感情的ウェルビーイングと学業成績ではどう異なるか,研究疑問2:幼少期の逆境体験の虐待,ネグレクト,家庭の機能不全というそれぞれの要素が,感情的ウェルビーイングと学業成績にどのような影響を与えるか,仮説2a/b:成人期に比較し,幼少期や思春期の逆境体験の方が感情的ウェルビーイング/学業成績に与える悪影響が強い,研究疑問3a/b:文化の違いで感情的ウェルビーイング/学業成績に与える影響が異なるのか,研究疑問4a/b:先行研究の限界であった長期間の影響,すなわち幼少期の逆境体験と感情的ウェルビーイング及び学業成績との関係に潜伏期間が与える影響と,因果関係はどのようなものか,を設定して検討を行った。

結果

仮説1a:幼少期の逆境体験と感情的ウェルビーイングの低さには中等度の関連が認められ,エフェクトサイズ(95%信頼区間:CI)は経験的相(瞬間の感情の質と毎日の経験)では-0.34(-0.38--0.18),反射的相(人生の満足度の評価,意義,自己の内部及び自己を超えた目標を達成する能力)では-0.32(-0.34--0.24)であった。仮説1b:幼少期の逆境体験と,学業成績の低さには弱い関連が認められた(エフェクトサイズ=-0.18,95%CI:-0.21--0.05,p<0.001)。

研究疑問1:幼少期の逆境体験が与える影響は,学業成績に比較し,感情的ウェルビーイングの経験的相,反射的相のいずれにおいてもより大きかった。

研究疑問2:感情的ウェルビーイングの経験的相は,家庭の機能不全(エフェクトサイズ=-0.15)よりも,虐待(エフェクトサイズ=-0.32)との間に強い関連が見られた。一方,反射的相及び学業成績との間には関連が認められなかった。

仮説2a/b:幼少期の逆境体験と感情的ウェルビーイングとの関連は,幼少期(エフェクトサイズ=-0.28)と思春期(エフェクトサイズ=-0.32)で強く,成人期初期や後期(エフェクトサイズはそれぞれ-0.22,-0.23)では低かったが,幼少期の逆境体験と学業成績の関連には,発達段階による差は認められなかった。

研究疑問3a/b:小児期の逆境体験と感情的ウェルビーイングとの関連には,男女間で差はなく,東洋文化と西洋文化間の差もなかった。

研究疑問4a/b:幼少期の逆境体験が感情的ウェルビーイングに与える影響は即時的かつ長期的であり,潜伏期間が長くてもその影響は小さくならなかった。ちなみに潜伏期間は3ヶ月から20年までの幅があった。幼少期の逆境体験と低い学業成績の双方向の影響のエフェクトサイズは-0.18で,幼少期の逆境体験が低い学業成績に与える影響のエフェクトサイズ-0.16との間に大きな差はなかった。

結論

幼少期の逆境体験は,感情的ウェルビーイングに中等度の負の影響を与え,学業成績には弱い負の影響を与えることが,今回のレビュー及びメタ解析で明らかになった。

266号(No.2)2024年7月1日公開

(真鍋 淳)

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