出生前の抗うつ薬への曝露と子の脳の形態学的軌跡

JAMA PSYCHIATRY, 80, 1208-1217, 2023 Prenatal Antidepressant Exposure and Offspring Brain Morphologic Trajectory. Koc, D., Tiemeier, H., Stricker, B. H., et al.

背景

妊娠中の女性では7~20%が抑うつ症状と不安を経験する。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は精神症状の再燃予防のため,維持療法として妊娠中も使用されることが多い。母親の抑うつとSSRIへの出生前曝露の両方が,子どもにおける神経発達障害を含む負の転帰と関連している。現在,妊娠中の患者にSSRIを処方することは一般的に安全と考えられているが,方法論的な限界が,出生前のSSRI曝露が子に及ぼす潜在的な直接的影響の理解を複雑にしている。適応による交絡はそのような限界の一つであり,SSRIを使用している妊娠中の女性は,独立して子の有害な転帰と関連する可能性のある特性や状態(より重度の抑うつ症状を含む)を持っていることが考えられる。

方法

本研究は,オランダで行われた,胎児期から青年期までの大規模な集団ベースのコホートであるR世代研究(Generation R Study)の中に組み込まれた。妊娠中の母親のSSRI使用の確認を最適化するために,母親が記載した質問票と薬局からの処方記録を用いて情報を収集した。母親の精神状態に関する情報は,妊娠中(妊娠20週)及び出産後(2ヶ月及び6ヶ月)に,自己記入式の質問票であるBrief Symptom Inventoryの6項目の抑うつ尺度を用いて収集した。前述の情報に基づき,母親を対照群,出産前SSRI曝露群,妊娠前SSRI曝露群,出産前抑うつ曝露群,産後抑うつ曝露群の5群に分類した。

子には,7~15歳の間に頭部MRIによる神経画像評価を3回施行した。

出産前のSSRI曝露及び抑うつ症状と,子の7~15歳の脳形態との関連を線形混合効果モデルを用いて検討した。前頭葉,帯状回,体性感覚野(中心後回),高次視覚野(紡錘状回,海馬傍回)の皮質体積を含む関心皮質領域を第2層に含めて,観察された包括的な関連に対して,前頭辺縁系がどのように寄与するかを調べた。出産前のSSRI曝露と抑うつ症状曝露の両方に関連する皮質領域において,事後群間比較を行った。

結果

8,756名の母親が対象となり,最終的に3,198組の母子が含まれ,5,624回の画像スキャンを行った。

出生前のSSRI曝露は大脳灰白質体積の減少[β(SE)=-20,212.2(7,285.6)mm3,p=0.006]と関連し,特に皮質辺縁系回路の体積減少は15歳まで持続した。また,9~12歳において大脳白質[β(SE)=-16,336.7(4,167.2)mm3,p<0.001]と扁桃体[β(SE)=-159.1(31.3)mm3,p<0.001]の体積の減少とも関連していたが,これらの体積差は年齢と共に減少した。妊娠前のSSRI曝露,出生後の抑うつ曝露と主要な脳の転帰との関連は観察されなかった。出生前の抑うつ曝露は,大脳白質体積の急峻な増加と関連していた[年齢の交互作用:β(SE)=1,495.2(357.1)mm3,p<0.001]。

追跡解析では,Desikan-Killiany parcellationで定義された特定の皮質脳領域の発達軌跡を更に調べた。出生前のSSRI曝露は,年齢を問わず,前頭皮質・帯状皮質・側頭皮質において5~10%の範囲で一貫して体積の減少と関連していた。出生前SSRI曝露群と対照群との差は,7歳時では7.4%であったが,15歳時には1.2%に減少した。紡錘状回におけるキャッチアップ成長は,出生前SSRI曝露群におけるより急峻な体積増加によって説明された[年齢の交互作用:β(SE)=168.3(51.4)mm3,p=0.003]。出生後抑うつ曝露群においても紡錘状回のキャッチアップ成長が観察された[年齢の交互作用:β(SE)=140.3(51.6)mm3,p=0.003]。しかし,出生前のSSRI曝露は,出生後の抑うつ曝露よりも紡錘状回の体積の低下との関連が強かった[β(SE)=-621.4(164.2)mm3,p=0.007]。出生前の抑うつ曝露は吻側前帯状回における体積の減少[β(SE)=-166.3(65.1)mm3,p=0.006]と関連し,出生後の抑うつ曝露は紡錘状回における体積の減少[β(SE)=-480.5(189.2)mm3,p=0.002]と関連した。

結論

本コホート研究により,妊娠中の母親のSSRI使用が,7~15歳までの子の脳の形態的発達と関連していることが明らかになった。皮質辺縁系回路の体積が小さく,白質・扁桃体・紡錘状回がキャッチアップ成長することが報告された。本研究により,胎内でのSSRI曝露と脳の成長との関連についての理解が深まるかもしれない。

266号(No.2)2024年7月1日公開

(渡邉 慎太郎)

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