青年と若年成人における自傷行為の危険因子と予防因子:系統的レビューのアンブレラレビュー

J PSYCHIATR RES, 168, 353-380, 2023 Risk and Protective Factors for Self-Harm in Adolescents and Young Adults: An Umbrella Review of Systematic Reviews. McEvoy, D., Brannigan, R., Cooke, L., et al.

背景

青年は自傷行為を特に起こしやすい集団であり,英国では毎年約3万人の青年が自傷行為による入院治療を受けている。更に,自殺による死亡のリスクは,自傷歴の回数が多いほど高くなり,10~24歳ではそれ以上の年齢層に比べてリスクが高い。

この年齢群における自傷行為の危険因子と予防因子については,多くの系統的レビューがある。本アンブレラレビューでは,系統的レビューによって同定された,青年と若年成人(Adolescents and Young Adults:AYA)における自傷行為の最も重要な危険因子と予防因子を確立する。

方法

六つのデータベースを用いて検索を行い,おおよそ10~24歳のAYAにおける自傷行為を転帰とした系統的レビューとメタ解析からアンブレラレビューを実施した。

本研究に組み込まれた系統的レビューを,AMSTAR-2チェックリストの基準に基づいて,質の評価を高・中・低のいずれかに分類した。

AYAの自傷行為と関連するというエビデンスが最も多い危険因子と予防因子を決定するために,①AYAの自傷行為と関連する因子を調べるために行われた一般的なレビューにおいてその危険因子/予防因子が同定された回数と,②メタ解析に組み入れられた研究からのエフェクトサイズ[集約されたオッズ比(pooled odds ratios)]を調べた。

結果

最初に同定された研究は2,384件あり,そのうち61件を本研究に組み入れ,データの抽出,質的評価と分析のための系統的レビューとメタ解析を行った。

12件の一般的レビューによって,最も多く同定されたAYAの自傷行為の危険因子は幼少期の虐待/ネグレクトであり,次いで抑うつ/不安,いじめがあった(図A)。

自傷に関連して最も強固なエビデンスを持つ危険因子は,行為/行動問題であり,次いでパーソナリティ障害,抑うつまたは不安であった。精神医学的/心理学的な危険因子は若者における最も強固な危険因子として際立っており,同定されたオッズ比が2.0以上の危険因子20個のうち9個は精神医学的/心理学的な分類のもので,最もオッズ比の高かった3個を含んでいた(図B)。

予防因子を調査した系統的レビューは5報しかなく不足していたが,良好な社会的支援と家族及び友人による支援が最も多く同定された。

また,自傷行為を,自殺を目的とした自傷行為と,自殺を目的としない自傷行為の二つのサブカテゴリーに分けた場合にも,多くの危険因子が共通しており,最も多く同定された危険因子の上位10個のうち9個は両方に関連しているものであった。

結論

若者と関わる臨床医や専門家は,物質使用,教育関連及び個人レベル(LGBであるなど)の危険因子と共に,特に精神医学的危険因子及び有害な人生経験の危険因子についても認識すべきである。専門家が若者のこうした危険因子を認識した場合に,若者に対して適切なケアを紹介する手順を,様々な場面で整備する必要がある。自傷の危険因子と予防因子に関する知識は,若者の自傷を減らすための公衆衛生対策の計画と実施に活用されるべきである。

図A.転帰を自傷行為として、リスク因子を2回以上同定した一般的な系統的レビューの数(自殺を目的としない自傷行為と、自殺を目的とした自傷行為、自殺企画、自傷行為は区別しない)
図B.自傷行為のリスク因子について同定された最も高いオッズ比の円グラフ

266号(No.2)2024年7月1日公開

(冨山 蒼太)

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