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精神病性障害の患者に対する精神刺激薬とアトモキセチンによる治療:リアルワールドでの臨床的悪化リスクの再評価
BR J PSYCHIATRY, 224, 98-105, 2024 Treatment With Psychostimulants and Atomoxetine in People With Psychotic Disorders: Reassessing the Risk of Clinical Deterioration in a Real-World Setting. Corbeil, O., Brodeur, S., Courteau, J., et al.
背景
注意欠如・多動症(ADHD)はしばしば統合失調症スペクトラム障害やその他の精神病性障害(SZSPD)と併存する。ADHDの子どもや青年は,一般集団と比較して,成人期における統合失調症スペクトラム障害及びその他のSZSPDのリスクが高いと言われる。精神病性のイベントのリスク上昇が懸念されることから,SZSPDでは精神刺激薬やアトモキセチンによる治療は制限されている。
既存の観察研究は,ほとんどが精神病の非罹患者の精神病リスクの検討に焦点を当てており,精神病の既往のある患者を含めた研究は少ない。本研究の目的は,SZSPD患者においてこれらの治療が,開始前の1年間と比較して,開始後12ヶ月間に精神病で入院するリスクの上昇と関連するかどうかを検討することである。
方法
本研究は,ケベック州(カナダ)の行政保健登録を用いた後方視的コホート研究である。対象者は公的処方薬保険制度(PPDIP)に加入し,関連するICD-9またはICD-10コードで定義されるSZSPD[ICD-9:統合失調症(295),妄想状態(297),その他の非器質性精神病(298);ICD-10:統合失調症,統合失調症型障害,持続性妄想性障害,急性一過性精神病性障害,感応性妄想性障害,統合失調感情障害,その他の非器質性精神病性障害,特定不能の非器質性精神病(F20~F29)]の診断歴のあるケベック州居住者とした。年齢を問わず,2010年1月~2016年12月の間にメチルフェニデート,アンフェタミン,アトモキセチンのいずれかのADHD治療薬を抗精神病薬と併用開始し,更に開始前1年間及び開始後1年間にPPDIPの継続適用を受けていた患者とした。
第一従属変数は治療開始後1年以内に精神病で入院するまでの期間であった。第二従属変数は,精神病以外の精神疾患で入院するまでの時間と,全ての精神疾患(精神病性障害または非精神病性障害)で入院するまでの時間とした。
治療アドヒアランスや入院経過に影響を及ぼす可能性がある共変量は評価した。また,状態系列分析を用いて,ADHD治療薬及び抗精神病薬導入後1年間の精神病による入院の軌跡を前年と比較して可視化した。
結果
2002年1月~2017年12月にSZSPDと診断された患者は235,027名で,このうち11,391名(4.8%)がこの期間にADHD治療薬を使用していた。最終的に対象となった2,219名のうち,1,589名(71.6%)が研究期間中にメチルフェニデート,339名(15.3%)がアンフェタミン,291名(13.1%)がアトモキセチンを開始した。
アトモキセチン群では,他の2群と比較して,社会経済的地位が低く(p=0.0084),物質使用障害(p=0.0006),パーソナリティ障害(p=0.0302),過去1年間における精神病での入院歴(p<0.0001)または全ての精神疾患での入院歴(p<0.0001)を有する参加者の割合が高かった。
ADHD治療薬は使用開始から1年後には,約50%の参加者が継続的に服薬していなかった。しかし,抗精神病薬のアドヒアランスは,精神刺激薬またはアトモキセチンの投与開始直後から増加し,翌年を通して高いままであった(図)。
年齢,性別,SZSPDの罹病期間,社会経済的地位などの因子の影響の補正後,精神刺激薬かアトモキセチンを抗精神病薬と併用した場合,導入後12ヶ月間の精神病による入院リスクが低下した(補正後ハザード比=0.36,95%信頼区間:0.24-0.54,p<0.0001)。
研究コホートにおける精神刺激薬またはアトモキセチン投与開始前の1年間の非精神障害による入院有病率は13.7%であったのに対し,開始後の1年間では13.1%であり有意な差はなかったが,精神病による入院は15.6%から11.2%に有意に減少し(p<0.0001),精神病以外の精神疾患による入院(p<0.0001),全ての精神疾患による入院(p<0.0001)でも同様の関連が観察された。
結論
これらの所見は,メチルフェニデート,アンフェタミン,アトモキセチンなどのADHD治療薬が精神病性障害の患者において抗精神病薬と併用される場合,一般に考えられているよりも,臨床での使用が安全である可能性を示唆している。

267号(No.3)2024年9月17日公開
(佐久間 睦貴)
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