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妊娠中の血清リチウム濃度と分娩転帰との間の用量反応関係
ACTA PSYCHIATR SCAND, 149, 323-331, 2024 Dose Response Relationship Between Lithium Serum Levels During Pregnancy and Birth Outcomes. Schrijver, L., Kamperman, A. M., Bijma, H., et al.
はじめに
双極性障害の女性では,リチウムを使用することにより周産期の気分エピソードのリスクが低下する。一方,子宮内でリチウムに曝露することによる,先天奇形,流早産,在胎不当過大(LGA;出生体重が在胎期間における標準値の90パーセンタイル以上)児等の有害反応が報告されている。
本研究で筆者らは,母体のリチウム濃度が分娩転帰に及ぼす影響を調査した。
方法
2003~2019年にオランダのエラスムス医療センター,ライデン大学病院,その他の診療所を受診し,双極性スペクトラム障害または産後精神病で,全妊娠期間を通してリチウムを使用した女性患者を対象とした。患者数は81名,妊娠件数は101件である。このうち妊娠1回は61名,2回は20名であった。
全妊娠期間と各妊娠期間(第1期:在胎0~90日,第2期:在胎91~195日,第3期:在胎196日~分娩日)におけるリチウムの加重平均濃度を算出した。母子の転帰に関する詳細な情報は診療録から抽出した。
線形及びロジスティック回帰モデルを用いて,リチウムの加重平均濃度と妊娠期間,出生体重パーセンタイル,早産,LGAとの関連を調査した。その後の探索的分析では,認められた関連における媒介因子としての甲状腺刺激ホルモン(TSH)とサイロキシン(T4)の役割について検討した。
結果
妊娠中の平均リチウム濃度と妊娠期間との間に負の線形関連が認められた(図)。リチウム濃度が0.1mmol/L上昇するごとに妊娠期間は単回帰モデルで2.58日,修正回帰モデルで2.81日短縮していた[95%信頼区間(CI):-5.26--0.36,p=0.03]。その結果,平均リチウム濃度と早産のリスクとの間に正の関連が認められた[単回帰モデルではオッズ比(OR):1.66,95%CI:1.05-2.61,p=0.03;修正回帰モデルではOR:1.69,95%CI:1.06-2.68,p=0.03]。同様の関連は各妊娠期間の平均リチウム濃度との間にも認められた。平均リチウム濃度と,出生体重パーセンタイル及びLGA児出生リスクとの間に有意な関連は認められなかった。
またパス解析モデルを用いて,各妊娠期間における平均リチウム濃度と妊娠期間との関連に対する平均TSH及びT4濃度の媒介効果を検討したところ,リチウム濃度と妊娠期間との関連に対する甲状腺機能の媒介効果を示す徴候は認められなかった。
考察と結論
本研究の限界として,リチウムの測定回数が限られていたこと,TSH及びT4は一部の対象者でのみ測定されたため探索的媒介分析の検出力が限られていたことが挙げられる。
本コホート研究の結果は,母体の血清リチウム濃度と妊娠期間との間の用量反応関係を示している。

267号(No.3)2024年9月17日公開
(久江 洋企)
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