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小児及び若年成人における抗精神病薬と死亡率
JAMA PSYCHIATRY, 81, 260-269, 2024 Antipsychotic Medications and Mortality in Children and Young Adults. Ray, W. A., Fuchs, D. C., Olfson, M., et al.
背景
第二世代抗精神病薬の登場により,抗精神病薬による小児や若年成人の治療が著しく増加した。抗精神病薬は適応外または二次的な治療選択であることが多く,他の治療介入の方が副作用が少ないにもかかわらず,注意欠如・多動症(ADHD),破壊行動障害,うつ病に頻繁に処方されている。
そこで,第二世代抗精神病薬による治療を開始した患者の全死因死亡率を代替薬による治療と比較するために,医療費助成(メディケイド)を受けている小児と若年成人を対象とした調査を行った。
方法
米国Medicaid Analytic Extract(メディケイドと小児医療保険プログラムからのデータの全国リポジトリ)の登録,薬局,病院,外来,長期ケアに関するデータを使用した。死亡は,メディケイドファイルと死亡者の全国登録である全国死亡者名簿(National Death Index)とをリンクすることにより同定した。
抗精神病薬は経口第二世代抗精神病薬を対象とした。対照薬は,小児や若年成人に対する抗精神病薬の代替となり得るアトモキセチン,α-作動薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),その他の抗うつ薬[セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI),環状抗うつ薬,bupropion*,ミルタザピン],リチウムや抗痙攣系気分安定薬などであった。
コホートには,2004年1月1日~2013年9月30日に試験薬による治療を開始し,メディケイドに完全加入しており,過去1年間に抗精神病薬の使用がない5~24歳の患者を組み入れた。
結果
コホートには,2,067,507名[平均(標準偏差)年齢=13.1(5.3)歳,男性1,060,194名(51.3%)]が含まれた。抗精神病薬によるエピソードが817,082件,対照薬によるエピソードが1,851,119件であった。抗精神病薬エピソードには8,228,850件の処方が含まれ,最も多かったのはリスペリドン[3,733,316件(45.4%)],アリピプラゾール[2,058,593件(25.0%)],クエチアピン[1,673,917件(20.3%)],ziprasidone*[318,680件(3.9%)],オランザピン[241,876件(2.9%)]であった。抗精神病薬の処方量は,1日当たり100mg以下が5,415,054件,100mg超が2,813,796件であった。対照薬エピソードとしては,追跡期間中に13,520,975件の処方があり,クロニジン[2,663,317件(19.7%)],アトモキセチン[1,451,059件(10.7%)],グアンファシン[1,425,228件(10.5%)],セルトラリン[1,325,352件(9.9%)]が最も多かった。
抗精神病薬の用量がクロルプロマジン換算で100mg以下では死亡リスクとの有意な関連は見られなかった[率差(RD)=3.3,95%信頼区間(CI):10万人‐年当たり-5.1-11.7;ハザード比(HR)=1.08,95%CI:0.89-1.32]が,100mg超では死亡リスクは上昇した(RD=22.4,95%CI:6.6-38.2;HR=1.37,95%CI:1.11-1.70)。クロルプロマジン換算100mgを超える用量との関連は,過量投与による死亡において統計学的に有意であった(RD=8.3,95%CI:0-16.6;HR=1.57,95%CI:1.02-2.42)。
小児では,1,514,821人‐年の追跡期間中に2,101,545回の新規試験薬治療エピソードがあり,491名が死亡した(10万人‐年当たり32.4名死亡)。小児の死亡リスクは,抗精神病薬の用量がクロルプロマジン換算で100mg以下ではあることと有意な関連は見られず[率差(RD)=0.3,95%信頼区間(CI):-6.8-7.4;ハザード比(HR)=1.01,95%CI:0.79-1.59],100mgを超える用量でも有意な関連は見られなかった(RD=7.8,95%CI:-5.1-20.8;HR=1.20,95%CI:0.89-1.63)。
若年成人では,195,359人‐年の追跡期間中に566,656回の新規試験薬治療エピソードがあり,337名が死亡した(10万人‐年当たり172.5名死亡)。若年成人の死亡リスクは,抗精神病薬の用量がクロルプロマジン換算で100mg以下であることと有意な関連はなかった(RD=23.9,95%CI:-43.3-91.2;HR=1.15,95%CI:0.79-1.66)。しかし,死亡リスクは100mgを超える用量と有意に関連しており,抗精神病薬を現在使用している10万人‐年当たりの死亡者数のRDは127.5(95%CI:44.8-210.2),HRは1.68(95%CI:1.23-2.29)であった。
結論
重篤な身体疾患や精神病の診断がない小児及び若年成人において,抗精神病薬は,クロルプロマジン換算100mg以下での投与,及び5~17歳の小児に対する投与では死亡リスクの上昇と関連していなかったが,100mgを超える用量では,18~24歳の若年成人のリスクが有意に上昇した。
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日本国内では未発売
267号(No.3)2024年9月17日公開
(大谷 愛)
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