抗うつ薬の使用と痙攣発作のリスク:観察研究のメタ解析

EUR J CLIN PHARMACOL, 80, 175-183, 2024 Antidepressant Use and the Risk of Seizure: A Meta-Analysis of Observational Studies. Yang, W., Jia, Y.-H., Jiang, H.-Y., et al.

背景

抗うつ薬は効果があり,一般的には忍容性が高いが,骨折,メタボリック症候群,出血,更には痙攣発作といった副作用のリスクが報告されている。

過去の文献からは,抗うつ薬のタイプや個々の抗うつ薬,投与からの時期によって痙攣発作のリスクが異なるという報告があるが,一定した見解は得られていない。

本研究の目的は,系統的レビューとメタ解析によって,この点を明らかにすることである。

方法

本研究は,2023年5月までのPubMedとEMBASEのデータベースを用いて,「疫学ガイドラインにおける観察研究のメタ解析」に従って行った。

主要評価項目は抗うつ薬非投与群と比べた抗うつ薬投与群の痙攣発作のリスクとした。更に,研究デザインの違い,抗うつ薬のタイプ,個々の抗うつ薬,抗うつ薬の投与期間に基づいてサブグループ解析を行った。

統計手法としては,複数の研究の間に異質性が認められればランダム効果モデルを,そうでなければ固定効果モデルを用いて,抗うつ薬投与群の痙攣発作のリスクを求めた。

結果

1,709,878名を含む8報の研究(英国4報,台湾2報,カナダとスウェーデンから各1報)が系統的レビューによって抽出された。8報のうちの2報が症例対照研究,2報がコホート内症例対照研究,1報がコホート研究,1報が症例クロスオーバー研究,残りの2報は症例クロスオーバーとコホートの両方で計画された研究であった。

研究間の異質性はI2=89.2%と高かった。全1,709,878名から求めた抗うつ薬投与群の痙攣発作のリスクはオッズ比(OR)=1.59[95%信頼区間(CI):1.39-1.83]と,有意に高かった(p<0.001)。

異なる研究デザインにおいても同様にリスクは高く,それぞれのOR(95%CI)は,症例クロスオーバー研究で2.35(1.7-3.24),コホート研究で2.03(1.57-2.6),コホート内症例対照研究で1.74(1.41-2.15),症例対照研究で1.32(1.15-1.51)であった(いずれもp<0.001)。OR(95%CI)は,対照群を用いた五つの研究に限定しても1.53(1.34-1.74),うつ病の患者に限定した三つの研究でも1.83(1.54-2.17)と,いずれも類似した結果であった(共にp<0.001)。

抗うつ薬のタイプでは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(OR=1.48,95%CI:1.32-1.66;p<0.001)及びセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)(OR=1.65,95%CI:1.24-2.19;p=0.001)でリスクが高かったが,三環系抗うつ薬では有意な関連が認められなかった(OR=1.27,95%CI:0.84-1.92)。

個々の抗うつ薬においても,多くの抗うつ薬が痙攣発作と有意な関連を示したものの,三環系抗うつ薬(アミトリプチリン,ドスレピン,ロフェプラミン),トラゾドン,デュロキセチンは痙攣発作と有意な関連を示さなかった。

抗うつ薬使用から30日未満では,それ以後の使用と比べて有意に痙攣発作と関連した(OR=2.35,95%CI:1.7-3.24;p<0.001)。

考察

本研究にはいくつかの問題点がある。まず,対象とした研究が8報と少ないことである。特にサブグループ解析はサンプル数が十分ではなく,今後の研究が必要とされる。次に,制御されていない交絡因子が存在していたことである。たとえば,抗うつ薬の使用に伴う転倒とそれに関連する外傷性脳損傷は,痙攣に対する強い危険因子である。また,研究の異質性が高いことも問題点である。更には,対象とした研究の抗うつ薬の使用量の定義が一定していなかったため,抗うつ薬の量が考慮できていなかったことも挙げられる。これらの問題点はあるものの,本研究では,新世代の抗うつ薬及び抗うつ薬の使用早期に痙攣発作のリスクが高いことが明らかとなった。

267号(No.3)2024年9月17日公開

(船山 道隆)

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