治療抵抗性統合失調症患者の過剰な確認に対する精神病症状とクロザピン投与の影響:縦断的観察研究

BR J PSYCHIATRY, 224, 164-169, 2024 The role of Psychosis and Clozapine Load in Excessive Checking in Treatment-Resistant Schizophrenia: Longitudinal Observational Study. Fernandez-Egea, E., Chen, S., Sangüesa, E., et al.

背景

強迫症状(OCS)は統合失調症患者にしばしば見られ,at-risk mental stateの患者では12.5%,初期の統合失調症患者では25%,クロザピン治療患者では47%で認められると言われる。しかし,この現象の原因究明は不十分であることから,本研究では,縦断的に評価されたクロザピン治療患者の大規模コホートを用いて,精神病症状,クロザピン用量,OCSの間の動的相互作用を検討した。

方法

英国のイングランド東部地域に住む約89万人を対象とした公的精神医療機関であるCambridgeshire and Peterborough NHS Foundation Trust(CPFT)が収集した,匿名化された電子記録を用いた。2012年8月24日~2022年12月31日の情報を対象とした。

年次ケアプログラムアプローチ(CPA)評価には,社会人口統計学的データ(年齢,性別,発症年齢,クロザピン投与開始日),処方された薬剤,現在の喫煙習慣,アルコール使用,直近のクロザピン血漿中濃度結果が含まれた。精神病理学的尺度としては,2016年から毎年の自己申告による強迫症質問票(Obsessive-Compulsive Inventory–Revised:OCI-R)と,2017年から2年ごとに評価した陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の陽性症状を用いた。

サブ解析として,同意が得られた100名を対象として,クロザピン副作用と関連することが報告されている遺伝子多様体の影響を検討した。

OCI-Rでは合計得点が21点以上,またはいずれかの下位尺度で5点以上を臨床的に有意と見なした。3点以上のPANSSの陽性下位尺度(項目P1~P7)項目が一つもなかった場合,患者は精神病症状から寛解していると見なした。

マルチレベル媒介モデルにより,精神病症状の重症度と確認強迫との間の縦断的関連を,直接的に,及び強迫観念を介して間接的に評価した。

結果

196名のクロザピン治療患者と459回のOCI-R/PANSS評価から成り,各参加者は平均2.7年間追跡された。74名(37.9%)の参加者はOCI-R評点が強迫症(OCD)カットオフ21点以上であった。強迫観念と確認強迫が最も一般的な症状であった。196名中,精神病症状が寛解した60名のうち,25名が著しい確認行動(下位尺度で4点超)を示した。35名(17.9%)が,5年以上のクロザピン治療後にOCI-R評点5点未満のOCSを示した。

精神病症状は,全体的なOCSの重症度,及びOCI-Rの強迫下位尺度及び確認強迫下位尺度と有意な相関があった。この関連は,確認強迫(r=0.116)よりも強迫観念(r=0.419)の方が有意に強かった。OCSとPANSSの陽性症状の各精神病症状との関連を表に示す。

精神病症状の重症度は強迫観念を誘発することで,間接的に強迫確認行動に影響した[r=0.07,95%信頼区間(CI):0.04-0.09;p<0.001]。確認強迫に対する精神病症状の直接的影響は確認されなかった(r=-0.28,95%CI:-0.09-0.03;p=0.340)。精神病症状が寛解した65名において,確認強迫はクロザピン血漿中濃度(r=0.353;p=0.004)及び用量(r=0.378;p=0.002)と相関した。

サブ解析では,グルタミン酸作動性及びセロトニン作動性の遺伝子多様体(SLC6A4,SLC1A1,HTR2C)のいずれにも,精神病症状が強迫症状へ及ぼす影響を緩和する作用は認められなかった。

結論

OCSは精神病症状の重症度及びクロザピン投与による影響と,関連していることがわかった。セロトニン作動性多様体とグルタミン酸作動性多様体がOCSに対する精神病の影響を緩和している可能性については,遺伝子解析試料が97名と少なく,明らかにはならなかった。

表.強迫症状(OCS)と精神病症状との相関

268号(No.4)2024年10月28日公開

(内沼 虹衣菜)

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