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初回エピソード精神病におけるグルタミン酸系を基盤とした抗精神病薬の治療反応:前帯状皮質の二つのボクセル研究
NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 49, 845-853, 2024 Glutamatergic Basis of Antipsychotic Response in First-Episode Psychosis: A Dual Voxel Study of the Anterior Cingulate Cortex. Fan, L., Liang, L., Wang, Y., et al.
背景
統合失調症患者の中には,前頭葉皮質における過剰なグルタミン酸が病態に関連しているため,ドパミン系をターゲットとした抗精神病薬への反応性が低いサブグループがいると考えられている。
核磁気共鳴スペクトロスコピー(magnetic resonance spectroscopy:MRS)は非侵襲的にグルタミン酸を測定できる方法である。過去の研究では,前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC)におけるグルタミン酸高値が短期的な治療反応性の低さと関連していた。しかし,非反応群の膝周囲ACC(perigenual ACC:pACC)と背側ACC(dorsal ACC:dACC)というACC内の部位で過剰なグルタミン酸が認められるかどうか,抗精神病薬が非反応群のグルタミン酸濃度に悪影響を与えるかどうかはわかっていない。
方法
本研究はリスペリドンで治療を開始する未治療の初回エピソード統合失調症 (DSM-Ⅳ)を対象とした。70名の患者と41名の健常対照者を組み入れ,42名の患者が12週間のリスペリドン治療を完遂した。
治療前後に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による症状評価,MRSによるグルタミン酸系の測定を行った。グルタミン酸系の測定はpACCとdACCの2ヶ所で,グルタミン酸(Glu)と,Gluとグルタミンの比(Glx)を計測した。治療反応の定義はPANSSの治療前からの50%以上の変化とした。
結果
42名のうち27名が治療に反応し,15名は非反応であった。治療開始前の時点で,非反応群は反応群よりもグルタミン酸系が高値であったが,健常群と患者群で有意な差は認められなかった。
治療開始前のグルタミン酸系と12週間のPANSS合計評点の変化率に有意な関連は認められなかったが,PANSSの陰性症状のサブスケールの変化率と治療開始前のdACCのGlu濃度(p=0.013)及びGlx(p=0.004)には有意な関連が認められた。リスペリドン治療によるグルタミン酸系の有意な変化は認められなかった。
考察
本研究では,dACCにおけるグルタミン酸系高値は陰性症状の改善の低さと関連していた。過去のメタ解析では,前頭前野のグルタミン酸系シグナル上昇と陰性症状の関連は認められなかった。しかし,ACCのグルタミン酸系と報酬系の関連を示す研究,遺伝子や構造画像研究など,理論的にはこの関連を支持する研究もある。過去の研究と同様に,本研究においても12週間の抗精神病薬によるグルタミン酸系への影響は認められなかったが,未治療の患者を対象としたより長期の影響も調べる必要がある。
本研究の限界は,不眠や不安に対して追加の内服薬を使用していた影響,内服薬の用量設定を臨床医が行っていたため治療者による治療反応への影響があったかもしれないことなどが挙げられる。
結論
初回エピソード統合失調症における低い治療反応性はグルタミン酸高値と関連し,12週間のリスペリドン治療ではこのグルタミン酸高値は変化しなかった。患者層別化のために,今後はより大規模で長期の追跡を行う研究が必要である。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(髙宮 彰紘)
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