四つの主要な精神障害における皮質下容積の変化:5,604名を対象としたメガ解析研究と容積データ駆動型分類アプローチ

MOL PSYCHIATRY, 28, 5206-5216, 2023 Subcortical Volumetric Alterations in Four Major Psychiatric Disorders: A Mega-Analysis Study of 5604 Subjects and a Volumetric Data-Driven Approach for Classification. Okada, N., Fukunaga, M., Miura, K., et al.

背景

統合失調症(SZ),双極性障害(BP),うつ病(MDD),自閉スペクトラム症(ASD)などの精神障害における症状や行動の変化は様々であるが,その多くは認知・感情・意思の領域の障害に関連しており,社会機能障害や日常生活における苦痛の原因となり得る。

構造的磁気共鳴画像法(MRI)による先行研究の多くが,精神障害における皮質下領域の容積変化を明らかにしており,これらの領域が特徴的な症状に関与していると考えられている。しかし,複数の主要な精神障害に対する現在の診断システムの限界のいくつかを克服できるMRIデータ駆動型の臨床基準は,今のところ存在しない。

本研究では,SZ,BP,MDD,ASD,健常対照者(HC)の多数の被験者を,標準化された皮質下容積に基づいてクラスタリングし,データ駆動型のクラスタリング結果によって診断だけでなく認知/社会機能も説明できるかどうかを検討し,新規の機能関連脳バイオタイプ(BB)を作成することを主目的とした。

方法

被験者は,日本国内の認知ゲノム共同研究機構(COCORO)参加14施設から,今回の大規模な疾患横断コホートプロジェクトに登録された。各プロトコールのエフェクトサイズとその標準誤差をランダム効果モデルのメタ解析に入力し,全体の群間差とその標準誤差を求めた。

各領域容積の側方性を評価するために,半球優位比[(左-右)/(左+右)]として定義される側方性指数(LI)を用いた。5,604名の全被験者の標準化皮質下容積についてX-means非階層的クラスタリング解析を行った。次に,分散分析(ANOVA)または多変量分散分析(MANOVA)を用いて,被験者において,クラスタリング結果が認知機能や社会機能と関連しているかどうかを調べた。

結果

領域容積の群間差のエフェクトサイズのメタ解析では,SZ・BP・MDDでは両側側脳室(LV)容積が大きく,SZとBPでは両側海馬容積が小さく,SZ特異的に両側扁桃体・視床・側坐核の容積が小さく,右尾状核・両側被殻・両側淡蒼球の容積が大きいことが示された(Bonferroni補正p<0.05)。LIの群間差のメタ解析では,淡蒼球容積LIがSZで高かった(Bonferroni補正p<0.05)。

各被験者の皮質下領域容積を,性別・年齢・頭蓋内容積(ICV)を制御したHCの分布に基づいて標準化した。次に,zスコアに対してX-means クラスタリング解析を行った。クラスターAはLVが最も大きく,海馬,扁桃体(左),視床,側坐核容積が最も小さく,クラスターBは扁桃体(右)の容積が最も小さく,クラスターCは尾状核,下垂体,淡蒼球の容積が最も大きかった。クラスターDは尾状核,被殻,淡蒼球の容積が最も小さく,クラスターFは海馬,扁桃体,視床(右),側坐核の容積が最も大きく,クラスターGはLVの容積が最も小さく,視床(左)の容積が最も大きかった。

次に,ANOVAにより,クラスタリングの結果は認知機能と有意な関連があることが明らかになった。更に,社会機能についてMANOVA分析を行ったところ,クラスタリングの結果は社会機能に対して有意な影響が認められた。機能的に正常なグループは,全ての機能尺度の平均値がHCの平均値-1SDを上回った複数のクラスター構成と定義され,クラスターD,E,F,Gで構成された。合計四つのBB(BB1=クラスターA,BB2=クラスターB,BB3=クラスターC,BB4=クラスターD~G)が得られた(図)。BB1とBB2は,大脳辺縁系の容積が小さく,LVが大きいという特徴があり,それぞれ重度と軽度の認知/社会機能障害をもたらす。BB3は大脳基底核が大きいことが特徴で,軽度の認知/社会機能障害をもたらす。BB4は皮質下容積が正常で,認知/社会機能が正常であることを特徴とする。

結論

今回の結果は,今後,生物学的データに基づいた新しい精神科診断基準の作成に繋がる可能性があり,予測や治療法の選択に役立つことが期待される。

図.皮質下領域容積による四つのバイオタイプ分類と認知・社会機能との関連

268号(No.4)2024年10月28日公開

(米澤 賢吾)

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