統合失調症の発症率,有病率,国際的負担:世界疾病負担(GBD)2019から見たデータと批判的評価

MOL PSYCHIATRY, 28, 5319-5327, 2023 Incidence, Prevalence, and Global Burden of Schizophrenia: Data, with Critical Appraisal, from the Global Burden of Disease (GBD) 2019. Solmi, M., Seitidis, G., Mavridis, D., et al.

背景

統合失調症や他の精神障害を含む各種障害の有病率,発症率,負担の推計が,世界疾病負担2019(GBD 2019)研究によって提供されているが,過去のGBDデータにおいては,統合失調症による負担が過小評価されており,死亡率上昇を考慮すれば,負担はより大きなものになっていたであろう。また,GBD 2019論文の精神障害に関する部分においては,統合失調症の疫学や負担推計の詳細,及びその1990年からの変化が,国別・性別・年齢別に報告されていなかった。

本研究においては,1990~2019年の毎年の,統合失調症の有病率・発症率・障害に関する未補正の推計と年齢標準化推計を示すこと,これらの経時変化を性別,年齢,地域ごとの違いを考慮して提供することが目的である。

方法

GBDのデータベースから,統合失調症の有病率,発症率,障害共存年数(YLD),障害補正生存年数(DALY)のデータを不均等間隔で抽出した。統合失調症関連死亡のデータがないため,GBDにおける早死損失年数(YLL)は0であった。社会人口統計学指標(SDI)は,1人当たりの所得,学業成績,25歳未満女性の合計特殊出生率から成る。SDI群(低:<0.46,低中:0.46~0.60,中:0.61~0.68,高中:0.69~0.80,高:>0.80の5群)ごとに推定値を算出した。

1990年から2019年にかけて,未補正の,及び年齢補正された有病率・発症率・DALYの変化が特定の年齢層やSDI群で生じたかどうかを検証するため,2種類のメタ回帰分析を行った。

結果

GBD 2019の推計では,2019年に全世界で統合失調症の影響を受けているのは2,400万人であり,年齢標準化した有病率は10万人中287.41人であった。全世界における2019年の新規発症は129万人で,年齢標準化した発症率は10万人中16.31人であった。1990年と比較し,有病者の実数は1,420万人から2,360万人まで増加したが,年齢標準化有病率は0.87%減少し,発症者の実数が37.11%増加した一方,年齢標準化推計は3.30%減少した。統合失調症は2019年の全世界における15,107,248.25 DALYと関連し,その年齢標準化推計は10万対84.15 DALYであった。有病率や発症率の観点からは,未補正のDALYは65.44%増加したが,年齢標準化DALYは有意な変化を見せなかった。

国別に見ると,1990年以来,年齢標準化有病率・発症率・負担が最も増加したのはデンマークであった一方,DALYが最も減少したのは北朝鮮やナウルであった。

SDIが高いほど年齢標準化有病率・発症率・DALYも高かった。低~中SDIの国ではそれらの数値に有意な変化が認められなかった。年齢標準化発症率も高SDIの国で最高であったが,どのSDI群においても有意な増加は認められなかった。低SDIの国ほど未補正の有病率・発症率・DALYの増加が大きかったが(いずれもp<0.001),年齢補正後も増加が認められたのは有病率のみであった(p<0.001)。

性別による傾向にも変化はなかった。

結論

統合失調症の一次予防や二次予防のためには更なる研究の蓄積が必要であり,特に低所得国からの報告状況を改善しなければならないであろう。

268号(No.4)2024年10月28日公開

(滝上 紘之)

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