重度精神疾患を持つ個人の多疾患罹患の有病率:系統的レビューとメタ解析

LANCET PSYCHIATRY, 11, 431-442, 2024 Prevalence of Multimorbidity in People With and Without Severe Mental Illness: A Systematic Review and Meta-Analysis. Halstead, S., Cao, C., Mohr, G. H., et al.

背景

重度精神疾患(統合失調症スペクトラム障害と双極性障害)を持つ個人は,同時に身体疾患(心血管系,内分泌,神経,呼吸器などにおける疾患)においても,他の精神疾患(不安症や物質使用障害など)においても多数の疾患に罹患すると言われている。今まで言われていた併存症(comorbidity)の概念では,統合失調症における糖尿病の罹患といったように個別の疾患に焦点を置いていたが,多疾患罹患(multimorbidity)の概念はより広く,全身的で患者中心の視点を持つ。従って,健常群と比較してきわめて短命である重症精神疾患を持つ個人へのアプローチとして,多疾患罹患の概念が近年重要視されてきている。

本論文では,今まで十分には明らかではなかった重度精神疾患を持つ個人の多疾患罹患の有病率を系統的レビューとメタ解析にて求めた。

方法

2024年2月15日までのCINAHL,EMBASE,PubMed,PsycINFOのデータベースを検索した。重度精神疾患(統合失調症スペクトラム障害あるいは双極性障害)の観察研究において身体的多疾患罹患(身体疾患二つ以上)及び精神的多疾患罹患(重度精神疾患を含む三つ以上)について調べた研究を用い,ランダム効果メタ解析の手法により,身体的多疾患罹患の有病率のオッズを求めた。感度分析にて,年齢や疾患等による違いも求めた。また,重度精神疾患の個人における身体的及び精神的な多疾患罹患の絶対有病率も求めた。

結果

82報の論文から,1,623,773人の重度精神疾患を持つ群(1,223,561人の統合失調症スペクトラム障害と318,585人の双極性障害)と,対照群である13,235,882人の重度精神疾患のない群を用いた。重度精神疾患を持つ群では,平均年齢は47.9±16.1歳,男性が63%であった。

重度精神疾患を持つ群の身体的多疾患罹患のオッズ比(OR)は2.40[95%信頼区間(CI):1.57-3.65,k=11,p=0.0009]であった。双極性障害でのORは3.20(95%CI:1.65-6.22,k=5,p=0.0082),統合失調症スペクトラム障害でのORは2.16(95%CI:1.30-3.60,k=9,p=0.0082)であった。重度精神疾患の中では,40歳以下の群(OR:3.99,95%CI:1.43-11.10)は40歳より上の群(OR:1.55,95%CI:0.96-2.51)と比較して,身体的多疾患罹患が多かった(p=0.0013)。

重度精神疾患を持つ群の身体的多疾患罹患の絶対有病率は25%(95%CI:19-32%,k=29)であり,三つ以上の身体的多疾患罹患の絶対有病率も13%(95%CI:9-18%,k=27)と高かった。精神的多疾患罹患の絶対有病率は14%(95%CI:8-23%,k=21)であった。

考察

重度精神疾患を持つ個人はそうでない場合と比べて,身体的多疾患罹患を2倍多く持つことが明らかになった。若年者ではその傾向が更に強かった。また,精神疾患自体にも多疾患罹患が認められることが多かった。これらの結果の背景因子には,修正できない要因(遺伝,胎生期の問題,社会や文化面の影響)や修正可能な要因(生活様式,薬物療法の選択肢)が考えられる。

現在の医療は個々の疾患に対する治療ガイドラインを用いて施行されているが,これらの多疾患罹患に関する結果から,重度精神疾患を持つ個人に対しては,個々の疾患や個々の併存疾患にアプローチするというよりも,より広い視点から身体と精神疾患の両面へ取り組む治療モデルの構築が勧められる。

268号(No.4)2024年10月28日公開

(船山 道隆)

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