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心的外傷後の早期介入におけるEMDRの効果:系統的レビュー及びメタ解析
J PSYCHIATR RES, 174, 73-83, 2024 Efficacy of EMDR for Early Intervention After a Traumatic Event: A Systematic Review and Meta-Analysis. Torres-Giménez, A., Garcia-Gibert, C., Gelabert, E., et al.
背景と目的
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対しては眼球運動による脱感作・再処理法(EMDR)などの治療法がガイドライン上で推奨されているが,一方でPTSDの早期介入もしくは予防についてのEMDRのエビデンスは弱い。英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE)ガイドラインでは,心的外傷後3ヶ月以降においてEMDRが推奨されている。
心的外傷を負った人の5~30%は症状が慢性化する一方で35~65%は回復することから,EMDRによる早期介入はその自然経過よりも有益である必要がある。直近の心的外傷記憶はより分断化されていて一つのイメージとして表象に上りにくい。心的外傷記憶が直近であることを考慮した方法として,EMDR-PRECI(EMDR protocol for recent critical incidents)やR-TEP(recent traumatic episode protocol)などといったEMDRの修正版が開発されている。
本研究では,心的外傷後のEMDRによる早期介入の有効性を評価するため,系統的レビューとメタ解析を行った。
方法
本メタ解析はPRISMAガイドラインに則って行い,心的外傷後3ヶ月以内にEMDRによる早期介入を行った研究を対象とし,標準版及び修正版のEMDRに関する治療効果の系統的レビューを行った。2023年9月までの無作為化対照試験(RCT)を系統的に検索した。
結果
文献検索により347試験が同定され,最終的に11試験がレビューの対象となり,11試験がメタ解析に使用された。国別では,メキシコが3試験,イスラエル,フランス,オランダが2試験ずつ,イタリアと英国で1試験ずつであった。5試験では抑うつや不安など全般的な症状への予防効果を,6試験ではPTSD症状に特化した予防効果を評価していた。2試験では標準的なEMDRの方法を,9試験では早期介入のために修正された方法を使用していた。
介入終了直後及び3ヶ月後の追跡評価では,対照群(待機や支持的精神療法)と比較して,EMDRの介入によってPTSD症状を有意に改善する効果が認められた(それぞれHedge’s g=-2.53及び-2.10)。一方で,2試験で6ヶ月後,1試験で12ヶ月後の追跡評価が行われていたが,いずれも有意ではなかった。
また,不安や抑うつ症状については,介入終了直後及び3~12ヶ月後の追跡評価では有意な効果は認められなかった。
試験の脱落率には両群間で有意な差はなかった。また,有害事象については4試験で記載があり,1試験では有害事象はなかったと報告されたが,別の試験では19名中6名がセッション中に精神的苦痛を訴え,一時中断する必要があるほどであった。更に別の試験では介入群で1名に自殺既遂が認められたが,研究から独立した精神科医により介入との関係はないと判断された。また他の試験では1名で自殺念慮の増悪のため介入が中断された。
考察
本解析では,EMDRによる早期介入は自然経過よりもPTSD症状に対してより早い回復をもたらすことが示唆された。長期経過については試験が少なかったためその有効性は明らかではなかった。
また,不安や抑うつへの有意な効果は認められなかった。これはEMDRの特徴から考えると驚くべきものではなかったが,心的外傷を対象とした認知行動療法では不安や抑うつへの効果も報告されていることとは対照的であった。安全性については介入群と対照群で脱落率に差はなかったが,そもそも安全性についての報告が少なかった。今後の更なる研究が待たれる。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(是木 明宏)
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