認知症患者の抗精神病薬使用に関連する複数の有害転帰:人口ベースのマッチドコホート研究

BMJ, 384, e076268, 2024 Multiple Adverse Outcomes Associated With Antipsychotic Use in People With Dementia: Population Based Matched Cohort Study. Mok, P. L. H., Carr, M. J., Guthrie, B., et al.

背景

認知症の行動・心理症状(BPSD)にはアパシー,抑うつ,攻撃性,不安,いらいら,せん妄,精神病などがあり,患者及び介護者の生活の質(QOL)に負の影響を及ぼし,早期の施設入所に繋がる。認知症のBPSDには抗精神病薬が一般的に使用されるものの,その安全性については長年懸念されてきた。

脳卒中や死亡率のリスク上昇は,多くの観察研究やメタ解析によって一貫して報告され,英国・米国・欧州では,認知症のBPSDの治療における抗精神病薬の不適切な処方を減らすことを目的とした,規制当局による安全警告や国家的介入に繋がった。他の有害事象についても観察研究で報告されているが,肺炎を除いてエビデンスは限定的である。

本研究では,イングランドのプライマリーケアのデータを用いて,認知症の大規模コホートにおいて,抗精神病薬使用に関連すると考えられる様々な有害転帰のリスクを調査した。

方法

英国人口の約20%を網羅し,診断,プライマリーケアの受診,処方薬,検査結果,二次医療機関への紹介の情報が含まれるClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いた。1998年1月1日~2018年5月31日の間に認知症の診断を受けた50歳以上の成人(173,910名,女性63.0%)を対象とした。認知症の診断日以降に抗精神病薬を使用した参加者は35,339名(女性62.5%)であり,これらの参加者1名につき,発生密度サンプリングを用いて,認知症の初回診断日が同じ(または診断の56日後まで)で診断前に抗精神病薬を処方されていなかった患者を無作為に最大15名までマッチさせた。抗精神病薬には定型及び非定型をどちらも含めた。

転帰は,脳卒中,静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症,肺塞栓症を含む),心筋梗塞,心不全,心室性不整脈,骨折,肺炎,急性腎障害とした。また,測定不能の交絡因子の可能性を検出するために,虫垂炎と胆嚢炎を関連のない転帰(陰性転帰)とした。

抗精神病薬使用者と非使用者との間の測定可能な患者特性の不均衡を制御するために傾向スコア法を用い,個人特性,ライフスタイル,併存疾患,処方薬を傾向スコアモデルに含めた。

Cox回帰生存分析を用いて,抗精神病薬使用に関連する各結果のリスクを比較対象コホートと比較して推定し,その結果をハザード比として算出した。

結果

非使用者と比較して,抗精神病薬の現在の使用(処方後90日以内)は心室性不整脈を除く全ての転帰のリスク上昇と関連しており,ハザード比(95%信頼区間)は,肺炎で2.19(2.10-2.28),急性腎障害で1.72(1.61-1.84),静脈血栓塞栓症で1.62(1.46-1.80),脳卒中で1.61(1.52-1.71),骨折で1.43(1.35-1.52),心筋梗塞で1.28(1.15-1.42),心不全で1.27(1.18-1.37)であった(図)。陰性転帰(虫垂炎と胆嚢炎)についてはリスクの上昇はなかった。

結論

抗精神病薬の使用は,認知症患者における広範な重篤な有害転帰と関連しており,いくつかの転帰については,有害の絶対リスクが比較的大きい。これらのリスクは,脳血管障害や死亡率と同様に,今後の規制決定において考慮されるべきである。

図.現在・最近・過去の抗精神病薬使用に関連する有害転帰のハザード比(逆確率重み付け法によって補正)

268号(No.4)2024年10月28日公開

(黒瀬 心)

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