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境界性パーソナリティ障害の思春期から成人初期までの経過:5年間の追跡調査
COMPR PSYCHIATRY, 132, 152478, 2024 The Course of Borderline Personality Disorder from Adolescence to Early Adulthood: A 5-Year Follow-Up Study. Jørgensen, M. S., Møller, L., Bo, S., et al.
背景
境界性パーソナリティ障害(Borderline personality disorder:BPD)は,パーソナリティ特性・行動・症状の混在する重篤な精神障害であり,思春期に発症し,思春期及び若年成人期に有病率がピークに達する。一度でもBPDと診断された人々は持続的に機能の低下が見られ,デンマークの全国的な調査では,早期発症のBPDは失業率と障害年金受給率がともに高いことが示されている。
BPDの診断や治療の遅れにより,治療の効果が見られないことや機能障害の悪化など,有害なリスクが高まることが懸念されており,BPDの早期発見と介入の重要性が指摘されている。一方で,中長期的な臨床経過に関する情報は依然として不足しているため,本研究では,思春期にBPDと診断された若者の5年間の追跡調査を行い,その経過を明らかにすることを目的とした。
なお,本研究の参加者は,2015年に開始されたBPDの若者に対するメンタライゼーションに基づくグループ療法(Mentalization-based group therapy:MBT-G)の無作為化対照試験(M-GAB研究)への参加者である。
方法
参加者は,デンマークのZealand地域の精神保健サービスにおける四つの児童青年精神科外来クリニックから2015~2017年に紹介された。参加基準は,DSM-5のBPD基準の少なくとも四つを満たすこと,子ども用の境界性パーソナリティ特性尺度(Borderline Personality Features Scale for Children:BPFS-C)で臨床的カットオフを上回ること,年齢が14~17歳であることであった。追跡調査(本研究)は5年後に行われたため,追跡調査時の研究参加者は全員が19歳以上の成人であった。
評価には,精神病理の広範な評価(Schedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry:SCAN)とパーソナリティ障害の評価(Structured Clinical Interview for DSM-5 Personality Disorders:SCID-5-PD)を用いた半構造化面接と,注意欠如・多動症(ADHD)(WHO ADHD Adult Self Report Scale for DSM-5:ASRS-5),アルコール使用障害(Alcohol use Disorders Identification Test:AUDIT),タバコの使用,薬物の使用,心的外傷後ストレス障害(International Trauma Questionnaire:ITQ),全般的な機能(Work and Social Adjustment Scale:WSAS)を評価する自己報告型の尺度を使用した。
結果
本研究には,M-GAB研究の参加者111名のうち97名(87%)が参加した。今回の追跡調査によって,以下の三つの特徴(①~③)が見受けられた。
①全般的な機能は依然として著しく障害され,医療サービスの利用率も高い状態が続いていたこと。参加者の36%は教育・就業・職業訓練に従事していないNEET状態であった。これはデンマークの一般人口におけるNEET有病率を大幅に上回っている。また,参加者の約半数は追跡調査時点でもメンタルヘルスの問題を抱えているために精神療法や薬物療法を受けていた。
②参加者の大多数が臨床的な症状を保持していたこと。参加者のうち精神障害を示唆する症状が見られなかったのは16%にとどまり,参加者のうち約70%が少なくとも一つ以上のBPD基準を満たしていた。
③様々な精神障害の有病率が高いこと。参加者の1/3はうつ病の基準を満たし,37%は不安症を有し,約60%は自己申告の結果,ADHDの可能性が高かった。また,M-GAB研究では統合失調症や解離性障害が除外基準となっていたが,16%が統合失調症,3%が解離性障害を発症していた。一方で,M-GAB研究以外のBPD症例と比較して,閾値レベルの精神障害の有病率は低かったことが示されている。この結果はBPDの早期発見と介入によって長期的な症状の悪化が防がれた可能性があることを示唆している。
結論
本研究は,思春期にBPDと診断された若者の5年後の追跡結果を明らかにした。結果として,多くの参加者が依然として精神障害や機能障害を抱えており,思春期のBPDは不適応の指標であることが示された。これらの結果から,早期介入が重要であり,社会的及び職業的支援を含む包括的な治療アプローチが求められることが示唆された。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(原田 理沙)
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