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思春期早期における物質使用開始の予測因子
AM J PSYCHIATRY, 181, 423-433, 2024 Predictors of Substance Use Initiation by Early Adolescence. Green, R., Wolf, B. J., Chen, A., et al.
背景
物質使用は思春期に始まることが多い。物質使用の開始年齢が若いほど物質使用障害(SUD)への移行が早く,精神障害の罹患率が高くなる。早期の物質使用により,神経生物学的・認知的・行動学的に有害な影響が生じることに加え,成人期における精神疾患やSUDへの脆弱性が増悪する。予防や早期介入の取り組みに寄与するために,早期の物質使用の危険因子と保護因子を同定する必要性が強調されている。本研究の目的は,精巧な統計学的手法を用いて,思春期早期における物質使用開始の予測因子を複数の領域にわたり検討することである。
方法
思春期脳認知機能発達研究(Adolescent Brain Cognitive Development Study)に参加していた9~10歳の11,868名を対象に,3年間の追跡調査を行った。評価は人口統計学的変数(36項目),物質使用の自身や友達との関連(8項目),保護者の行動(5項目),精神保健面(22項目),身体的な健康面(16項目),文化・環境面(13項目),生体試料(2項目),神経認知機能(15項目),構造的神経画像(303項目)について,計420項目により行った。
主要評価項目は3年間の追跡調査期間中の,子どもの自己報告による物質使用開始(処方されていない物質使用)の二進法指標とした。本研究では,①全ての自己報告アンケートから成る自己報告のみのモデル(100項目),②モデル①の全ての変数に思春期ホルモンと神経認知予測因子を加えたモデル(117項目),③モデル②の全ての変数に神経画像変数を加えたモデル(420項目)によるエラスティックネットペナルティを用いて,三つの階層のペナルティ付きロジスティック回帰モデルを使用した。結果の正の係数は,物質使用開始の可能性が高いことを示し,負の係数は,物質使用開始の可能性が低いことを示すものであった。
結果
12歳までに6,829名(14.4%)が物質使用をしており,最も多く報告されたものはアルコールであり,次いで大麻,ニコチンの順であった。
ペナルティ付きロジスティック回帰モデルのデータセットについては,モデル①[曲線下面積(AUC)=0.666]はモデル②(AUC=0.669)と最終モデル(モデル③)(AUC=0.659)と同程度の予測性能を示すものであった。
最終モデルにおいて,最も強い予測因子は宗教であり,特にモルモン教を信仰していると親が報告している子どもでは薬物の使用開始の可能性が低かった(係数=-0.87)。次に強い予測因子はユダヤ教で,薬物使用を開始しやすかった(係数=0.32)。3番目に強い予測因子は人種で,特に黒人の若者は薬物使用を開始しにくかった(係数=-0.32)。
結論
著者らのアプローチは,最も重要な危険因子を同定する予測性能を各領域で直接比較した点で,先行研究に勝るものであった。本研究の結果は,物質使用開始のリスクに関する情報を適切に提供するためには,社会人口統計学的因子と改善可能な危険因子の包括的評価が必要である可能性を示唆している。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(冨山 蒼太)
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