都市部の精神科入院病棟におけるオープンドア政策と通常治療との比較:ノルウェーにおける実用的無作為化対照非劣性試験

LANCET PSYCHIATRY, 11, 330-338, 2024 Open-Door Policy Versus Treatment-as-Usual in Urban Psychiatric Inpatient Wards: A Pragmatic, Randomised Controlled, Non-Inferiority Trial in Norway. Indregard, A.M. R., Nussle, H. M., Hagen, M., et al.

背景

強制的な医療行為は患者の人権を侵害し,身体的危害,心理的外傷,医療サービスに対する反感,施設収容や受動性のリスクを増大させる危険性がある。一方で,自発的で協力的な手段だけに頼ることは,精神障害者の自傷他害を防げないかもしれない。そのため,閉鎖処遇,隔離,拘束といった強制的な行為は,一定の法的条件のもとで,精神科急性期治療中に認められている。

しかし近年,オープンドア政策を導入することで,精神科医療を変革しようとする大きな取り組みが開始されている。オープンドア政策とは,病棟のドアをできるだけ開放し,病棟の各患者との協力的な取り組みとリスク評価を実施することである。

本研究では,オープンドア政策病棟と施錠された通常治療病棟における行動制限の発生を比較することを目的とした。

目的

Lovisenberg Open Acute Door Study(LOADS)は,12ヶ月間の実用的無作為化対照非劣性試験として計画され,ノルウェーのオスロにあるLovisenberg Diaconal病院の精神科で実施された。精神科集中治療室から精神科急性期病棟に紹介された全ての患者(18歳以上)が適格かどうかのスクリーニングを受けた。試験期間中,入院病棟から精神科急性期病棟治療のために紹介された患者を,二つのオープンドア政策病棟または三つの通常治療病棟のいずれかに割り付けた。

主要転帰は一つ以上の強制的措置が用いられた患者の割合とし,患者の臨床記録から検索した。また,患者の行動制限体験と病棟の雰囲気も評価した。これら二つの患者報告による経験尺度(行動制限と病棟の雰囲気)は,通常の治療の一環として実施され,無作為に割り付けられた患者のうち,入院中(通常は治療終了時)にアンケートに回答する意思のある患者の記録から得た。患者の行動制限体験は強制体験尺度(Experience of Coercion Scale:ECS)で評価し,患者の病棟風土体験はエッセン風土評価尺度(Essen Climate Evaluation Scale:EssenCES)で評価した。

結果

2021年2月10日~2022年2月1日の間に,650名の患者が適格性を評価され,このうち556名が適格となり,オープンドア政策群(245名)または通常治療群(311名)に割り付けられた。

強制的措置を受けた患者は,オープンドア政策病棟では245名中65名(26.5%)であったのに対し,通常治療病棟では311名中104名(33.4%)であり,絶対リスク差は6.9%[95%信頼区間(CI):-0.7-14.5]であった。クラスタリング効果を補正すると,オープンドア政策病棟と通常治療病棟のリスク差は10.9%(95%CI:-1.6-23.3)であった。

オープンドア政策病棟の患者は,通常治療病棟の患者よりも行動制限の体験を有意に低く評価し,ECSの平均差は0.5(95%CI:-0.8--0.2)であった。EssenCESについては,オープンドア政策病棟の患者は,通常治療病棟の患者よりも治療的な関心(平均差2.4,95%CI:1.2-3.5)及び安全性への実感(平均差3.5,95%CI:1.8-5.2)を高く評価した。

結論

全体として,非自発的入院患者が多い都市部において,強制的な手段を増やすことなく,オープンドア政策を安全に実施することができる。これらの知見に基づき,Lovisenberg Diaconal病院は全病棟にオープンドア政策を採用した。この無作為化対照試験で得られた知見を複数の国で裏付け,オープンドア政策のような複雑な介入が,安全への懸念を損なうことなく強制的な行為をどのように減らすことができるか検討する必要がある。

268号(No.4)2024年10月28日公開

(大谷 愛)

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