てんかん小児患者に対して通常ケアに心理療法のメンタルヘルス介入を追加した場合の臨床的有効性と,評価を強化した通常ケア単独との比較:英国における多施設共同無作為化対照臨床試験

LANCET, 403, 1254-1266, 2024 Clinical Effectiveness of the Psychological Therapy Mental Health Intervention for Children With Epilepsy in Addition to Usual Care Compared With Assessment-Enhanced Usual Care Alone: A Multicentre, Randomised Controlled Clinical Trial in the UK. Bennett, S. D., Cross, J. H., Chowdhury, K., et al.

はじめに

慢性疾患を持つ人は,健康な人の2〜4倍,精神的な困難を経験しやすい。これは特にてんかんを持つ小児及び若年者において顕著である。しかし多くの場合,慢性疾患を持つ青少年の精神衛生上の問題は診断されないままであり,その治療は不十分なままである。

本試験は,個別化されたモジュール型心理学的介入(Mental Health Intervention for Children with Epilepsy:MICE)と通常のケアの有効性を,通常のケアのみと比較することを目的とした。

方法

MICE試験は,てんかんと一般的なメンタルヘルスの問題を有する青少年を対象に,臨床医が遠隔で行うMICE療法の有効性を評価する多施設共同並行群間優越性無作為化対照試験であり,イングランドと北アイルランドの13のてんかん診療施設で実施された。参加基準は,英国国民保健サービス(NHS)のてんかんクリニックに通院していること,年齢3~18歳,精神的健康症状についての長所・短所質問票(Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)の事前設定された閾値を超えていること,発達・幸福度評価(Development and Wellbeing Assessment:DAWBA)でDSM-5の精神的健康障害の診断基準を満たしていること,研究参加に協力する意思のある保護者がいること,である。

人口統計,てんかん診断年齢などの参加者の特徴は,介護者の自己申告と医療記録の確認を通して記録した。MICEの治療介入は,電話やビデオ会議を通じて提供される個別化されたモジュール式の認知行動介入である。MICE療法では,初回評価を行い,その後,臨床医と毎週電話またはオンラインビデオ通話を行った。介入は,子どもの発達レベルと現在の困難に応じて,養育者または子どもに行われた。治療は最大20セッションと2回のブースターセッションから構成された。

主な転帰指標は,無作為化後6ヶ月目に親または介護者が報告したSDQ総合困難度評点(範囲は0~40点で,評点が高いほど精神保健上の困難が大きい)とした。主要転帰はintention-to-treat(ITT)集団で評価し,6ヶ月時点でデータが得られた参加者を無作為化群別に分析した。

6ヶ月後のSDQ総合的困難さ評点に群間差があるかどうかを判定するために,部分クラスター化混合効果線形回帰モデルを用いた。このモデルには,介入群,基準時点のSDQ総合的困難さ評点,最小化因子の固定効果が含まれていた。

結果

334名(70%)が全ての適格基準を満たし,166名をMICE群,168名を対照群に割り付けた。一次解析集団は,プロトコール及び統計解析計画で定義された期間内に結果データが報告された患者296名(各群148名)であった。参加者の平均年齢は両群ともほぼ同じであった。MICE群のセッション数の中央値は16(IQR12~19)であった。

6ヶ月後の平均SDQ総合的困難さ評点は,MICE群で17.6点[標準偏差(SD) 6.3点]であり,基準時点から-5.3点(SD 4.9点)の変化であったのに対し,対照群では19.6点(SD 6.1点)であり,基準時点から-3.8点(SD 5.1点)の変化であった(図)。主要転帰において,MICE群に有利な有意な群間効果が見られ,MICE群患者と対照群患者の6ヶ月後のSDQ総合的困難さ評点の補正後差は-1.7[95%信頼区間(CI):-2.8--0.5;p=0.0040]であった。この効果は12ヶ月後も維持されており,補正後差は-2.0(95%CI:-3.2--0.9;p=0.0001)であった。

考察

MICEは,てんかんと一般的な精神的健康障害を有する若年者の情動症状及び行動症状の改善において,評価を強化した通常ケアよりも優れており,それは無作為化後12ヶ月間維持された。

図.MICE群と対照群における平均SDQ総合的困難さ評点

268号(No.4)2024年10月28日公開

(野村 信行)

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