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人生全般におけるストレスの蓄積と成人期の生物学的老化との関連
PSYCHOSOM MED, 86, 137-145, 2024 Cumulative Stress Across the Life Course and Biological Aging in Adulthood. Suglia, S. F., Clausing, E. S., Shelton, R. C., et al.
背景と目的
人生初期の経済的・社会的ストレスは,成人期の健康転帰を悪化させ,病死リスク及び全死亡リスクを上昇させる。このことは,経済的・社会的なストレスと,老化の加速及び慢性疾患発症とを繋ぐ生物学的メカニズムが存在する可能性を示唆する。しかし,生物学的老化に関連する人生全般のストレスを調べた研究は,わずかしか存在しない。
方法
1959~1967年にカリフォルニア州の診療所で出産前のケアを受けた妊婦の子どもが登録されている子どもの健康と発達研究の格差研究(Child Health and Development Studies Disparities Study:DISPAR)の参加者605名のうち,359名(白人57%,黒人34%)を解析の対象とした。
複数の時点(出生時,9歳時,15歳時,50歳時)における経済的(収入,教育,財政的逼迫),社会的(親子関係,介護者の責任),外傷性(同胞または子どもの死,暴力への曝露)ストレスの強さを評価した。50歳時には,重大な被差別体験を評価した。人生全般のストレスの強さは,小児期(出生から15歳時)と成人期(50歳)に評価した。
50歳時に血液検査を行い,DNAメチル化をEPIC BeadChipで評価した。エピジェネティック年齢の推定には,六つのエピジェネティック時計(Horvath,Hannum,GrimAge,PhenoAge,Skin and Blood age,DunedinPACE)を使用した。HorvathとHannumは実年齢を予測するために開発された第一世代であり,GrimAge,PhenoAge,Skin and Blood ageは罹患率と死亡率の予測ができるとされる第二世代である。他の第二世代であるDunedinPACEは老化のペースをとらえるために開発されたもので,複数の臓器の機能低下に関連しているとされる。エピジェネティックな老化の加速(エピジェネティック年齢と実年齢との差)は,高齢者コホート研究の結果,実年齢及び危険因子とは独立して,全死亡率を予測することが判明している。
また,心血管疾患や寿命の短縮など,いくつかの慢性疾患の早期発症の増加と関連しているとされている染色体末端のテロメア長の短さを,定量的ポリメラーゼ連鎖反応を基盤とした方法で評価した。
結果
359名のうち53.2%が男性であった。男性の平均年齢は49.2歳で,56.5%が白人,57.1%が非喫煙者であった。女性の平均年齢は49.52歳,56.5%が白人,51.8%が非喫煙者であった。男性に比較し,女性は幼少期により強いストレスを経験している一方,成人期のストレスに男女差はなかった。
PhenoAgeとDunedinPACE以外のエピジェネティック時計による年齢には,実年齢との相関が認められた。性別・人種・喫煙状態で補正後,GrimAge,Skin and Blood age,DunedinPACEの三つにおいて,人生全般のストレスの強さとエピジェネティックな老化の加速に関連が認められた。GrimAgeとDunedinPACEの二つにおいては,小児期及び成人期のストレスの強さと老化の加速に関連が認められた。Skin and Blood ageでは,成人期のストレスと老化の加速に関連が認められた。
性別で見ると,人生全般のストレスには男女いずれにおいても,GrimAge,DunedinPACEでのエピジェネティックな老化の加速との関連が認められた。しかし喫煙で補正後は,男性でのみGrimAge,Skin and Blood age,DunediPACEとの関連が残った。曝露の期間ごとに検討を行うと,喫煙で補正後,男性では成人期のストレスがGrimAge及びDunedinPACEでのエピジェネティックな老化と関連していたが,女性では小児期のストレスがGrimAge及びDunedinPACEでのエピジェネティックな老化と関連していた。
Horvath,Hannum,PhenoAge,テロメア長は,いずれのストレスとも関連が認められなかった。
結論
米国の黒人と白人を対象とした本研究では,女性では小児期のストレスが,男性では成人期のストレスが,エピジェネティックな老化の加速とより強く関連していることが示された。GrimAgeとDunedinPACEの二つの第二世代時計においてストレスと老化の加速の関連が一貫して認められたが,ストレスとテロメア長との関連は認められなかった。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(真鍋 淳)
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