抗精神病薬中止後の離脱症候群:2000年から2022年までのWHOの自発的報告データベース(Vigibase)の解析

PSYCHOPHARMACOLOGY, 241, 1205-1212, 2024 Withdrawal Syndrome After Antipsychotics Discontinuation: An Analysis of the WHO Database of Spontaneous Reports (Vigibase) Between 2000 and 2022. Storck, W., de Laportalière, T. T., Yrondi, A., et al.

背景

抗精神病薬中止後に離脱症候群が起こることが報告されている。抗精神病薬間で離脱症候群のリスクが異なる理由を説明するいくつかの仮説が提唱されているが,これらの仮説はドパミン経路に重点を置いた薬力学的メカニズムに基づいている。離脱症候群は,ドパミン受容体の過剰発現とそれらの受容体の過感作に起因するドパミン神経経路の過剰な活性化の結果である可能性がある。従って,ドパミン受容体に対する高い親和性を持つ抗精神病薬は離脱症候群のリスクが高い可能性があると言える。

本研究は,その主張を検証し,薬物安全性データに基づいて抗精神病薬間の離脱症候群のリスクの違いを評価することを目的としている。

方法

Vigibaseには130ヶ国以上の国家医薬品安全性監視プログラムから提供された薬物有害反応の情報が保管されている。2000年1月1日~2022年12月31日にVigibaseに登録された報告から,抗精神病薬による治療を受けて離脱症候群を呈した18歳以上の患者の報告を収集した。不均衡解析を実施し,それぞれの抗精神病薬を他の全ての抗精神病薬と比較して,離脱症候群を報告するリスクを評価した。広く標準化されたMedDRA検索条件(SMQ)用語の「薬物離脱(“Drug withdrawal”)」を使用して離脱症候群の症例を特定した。交絡を制限するため,抗うつ薬,リチウム,ベンゾジアゼピンが併用されている場合は除外した。

抗精神病薬の離脱症候群が報告されるリスクについて,報告オッズ比(ROR)を計算した。RORは,各離脱症状について,離脱症候群を経験したと報告された症例の曝露オッズと非症例(他の薬物有害反応の報告された症例)の曝露オッズを相対的に表したものである。次に,抗精神病薬のD2受容体と5HT2A受容体の結合親和性(pKi)[-log(Ki)]と,離脱症候群を報告するリスクとの関連を評価するために相関解析を実施した。

結果

報告は主にクエチアピン(966件,45.0%),オランザピン(288件,13.4%),クロザピン(281件,13.1%),リスペリドン(193件,9.0%)に関するものであった。抗精神病薬の中止後に最も高い頻度で見られた精神医学的離脱症状は不眠症,不安,抑うつであり,神経学的離脱症状は振戦,頭痛,めまいであった。

離脱症候群の報告されるリスクが高かったのはtiotixene*[ROR 7.08,95%信頼区間(CI):3.49-14.35],ピモジド(ROR 4.35,95%CI:1.93-9.77),クエチアピン(ROR 4.24,95%CI:3.87-4.64),thioridazine(ROR 4.17,95%CI:2.50-6.98),ziprasidone*(ROR 2.98,95%CI:2.41-3.67)であった。一方,このリスクはクロルプロマジン(ROR 0.25,95%CI:0.12-0.53),クロザピン(ROR 0.30,95%CI:0.26-0.34),フルフェナジン(ROR 0.31,95%CI:0.10-0.97)で低かった。D2/5HT2A結合親和性と離脱症候群の報告されるリスクとの間に相関関係はほとんどなかった(R2=0.094)。

結論

本研究の結果は,抗精神病薬間で離脱症候群のリスクに違いがあることを示唆する。

本研究の限界としては,離脱性精神病,離脱性ジスキネジア,反跳性精神病,過感受性精神病については,medDRAにコードされた用語がないため,特定できなかったことなどが挙げられる。

今後,ムスカリン受容体などの他の受容体に対する抗精神病薬の結合親和性に焦点を当てた研究が行われれば,離脱症候群の根本的なメカニズムをより深く理解するのに役立つであろう。 

* 日本国内では未発売 † 日本国内では販売中止

268号(No.4)2024年10月28日公開

(倉持 信)

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