- トップ >
- 文献 >
- PSYCHOABSTRACT >
-
【from Japan】
東日本大震災後の遺体収容業務に従事した陸上自衛隊初動対応隊員の長期的メンタルヘルスとレジリエンス
【from Japan】
東日本大震災後の遺体収容業務に従事した陸上自衛隊初動対応隊員の長期的メンタルヘルスとレジリエンス
Journal of Psychiatric Research, 173, 381-386, 2024 Long-Term Mental Health and Resilience of the First Responders in Japanese Ground Self-Defense Forces Engaging Body Recovery After the Great East Japan Earthquake. Yoshikazu Maeno, Manabu Fuchikami, Koichiro Fujimaki, Israel Liberzon, Shigeru Morinobu
前野 良和 先生
福島学院大学大学院附属心理臨床相談センター/吉備国際大学大学院心理学研究科
背景
業務中に心的外傷となる出来事に遭遇した初動対応者は,長期にわたって心的外傷後ストレス障害(PTSD),うつ病,不安症などを発症する可能性がある。中でも遺体関連業務は,非常に困難でストレスの多い作業であるため,初動対応者の精神障害の発症を予防するためには,遺体への曝露がメンタルヘルスに及ぼす短期的及び長期的な影響を評価し解明することが重要である。そのため本研究では,東日本大震災から6年後に,東日本大震災において遺体収容業務を行っても精神的健康を維持していた陸上自衛隊初動対応隊員のレジリエンスを,精神的健康の維持要因として着目し検討した。
方法
本研究は2017年12月に実施された。対象は,陸上自衛隊の一つの基地に所属する,東日本大震災後に遺体収容業務に従事した146名であった。参加者は全員男性で,平均年齢は39.2歳[標準偏差(SD)=8.4],士官10名及び下士官136名であり,震災後にPTSD,うつ病,不安症の既往歴はなかった。
評価指標として,精神的健康を精神健康調査票(General Health Questionnaire-28:GHQ-28),抑うつ症状を自己記入式抑うつ尺度(Self-rating Depression Scale:SDS),レジリエンスを三つの下位因子(社会的支援・自己効力感・社会性)で構成されるS-H式レジリエンス検査で測定した。
研究に際し,遺体との曝露の高さによって,遺体の視認や接触がなかった22名をA群,遺体を見た41名をB群,遺体を直接取り扱った83名をC群として分析した。
結果
一元配置分散分析で3群間の比較を行ったところ,レジリエンス及びその三つの下位因子において,C群がB群より有意に低い得点であった(いずれもp<0.01)。重回帰分析では,精神的健康に,抑うつ症状(p<0.01)及びレジリエンス(p<0.05)が有意に関連していた。
パス解析では,A群はレジリエンスの下位因子である社会的支援,B群ではレジリエンスの下位因子である社会性が,それぞれ抑うつ症状に影響し精神的苦痛の低さに繋がったのに対し,C群ではレジリエンスの下位因子である社会的支援と社会性の二つが抑うつ症状に影響し,精神的苦痛の低さに繋がった。
考察
我々の知る限り本研究は,遺体収容業務に従事する初動対応者を遺体への曝露の高さに応じて3群に分け,精神的健康とレジリエンスについて検討した初めての研究である。各群の変数を比較すると精神的健康及び抑うつ症状に差はなかったが,レジリエンス及びその三つの下位因子では遺体を直接取り扱ったC群が遺体を見たB群よりも得点が有意に低かった。更に,各群の変数の関連を比較したところ,A群はレジリエンスの下位因子である社会的支援,B群はレジリエンスの下位因子である社会性が,それぞれ抑うつ症状に関連し間接的に精神的健康に影響したのに対し,C群ではレジリエンスの下位因子である社会的支援と社会性の二つが,抑うつ症状に関連し間接的に精神的健康に影響することが示された。このことは,より高い遺体への曝露はレジリエンスを低下させる可能性があり,精神的健康を維持するためにはレジリエンスの二つの下位因子が必要である可能性を示唆したものと考えられる。
268号(No.4)2024年10月28日公開
(前野 良和)
このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。