ファブリー病の早期発見にはあらゆる診療科の協力が必要

  • 診療科腎臓内科
  • エリア茨城県稲敷郡

下畑 誉(しもはた ほまれ)先生

東京医科大学茨城医療センター 腎臓内科 兼任准教授

下畑 誉(しもはた ほまれ)先生

健診で指摘された蛋白尿を契機として診断に至ったファブリー病症例を経験

当院は、腎臓専門医5名と後期研修医4名で構成されています(2022年11月現在)。維持透析患者さんを約100例診療しており、当センターの特徴の1つとなっています。大学病院としての高度かつ専門的な医療と、患者さんに寄り添った地域密着医療を融合させながら、日常診療に取り組んでいます。

当科ではこれまで、約10例のファブリー病患者さんを診療してきました。私が最初に出会ったのは10年ほど前です。健診で蛋白尿を指摘された10代男性の方が外来を訪れました。糸球体腎炎の疑いで腎生検を行ったところ、ファブリー病を強く疑わせる糖脂質の沈着が確認されました。α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の酵素活性測定にて異常低値が示され、ファブリー病と確定診断しました。また、別の1例(30代男性)も蛋白尿を主訴に来院し、尿沈渣でファブリー病に特異性の高いmulberry cellが検出されたことでファブリー病が疑われ、腎組織での糖脂質沈着とα-Galの低値から確定診断に至りました。

皮膚や神経、眼、耳、消化器のほか、脳・心・腎に症状が現れることも

ファブリー病はX連鎖性の遺伝性疾患です。ライソゾーム酵素の1つであるα-Galの欠損あるいは活性低下により、その基質である糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb-3)などが分解されずに全身の臓器に沈着して多彩な障害を引き起こします。

代表的な症状は被角血管腫、低汗症、四肢末端疼痛、渦巻状角膜混濁などです。青年期以降に出現する心・腎・脳血管症状は生命予後に関連する重要な臨床症状です。病型は2つに分けられ、こうした症状や障害が小児期から現れる古典型と、壮年期になって臓器特異的に腎機能低下や蛋白尿、心肥大や不整脈などが現れる遅発型(亜型)に大別できます。男性はヘミ接合体となるため重篤な症状を呈することがある一方、ヘテロ接合体となる女性は軽症例から重症例まで様々です。

ファブリー病の診断は、白血球、血漿、線維芽細胞中のα-Gal活性を測定します。男性では白血球中の酵素活性が著明に低下していれば確定診断となりますが、血中のlyso-Gb3上昇、尿中Gb-3排泄増加、組織でのGb-3沈着などが認められれば、より診断は確実となります。女性では保因者であっても酵素活性が低値を示さない場合があり、遺伝子検査や病理検査、家族歴などから総合的に判断します。近年、ファブリー病に比較的特異的な臨床所見として尿中マルベリー小体や尿中マルベリー細胞が注目されており、早期診断に有用と考えられております。

あらゆる診療科で早期発見に努めることが大切

ファブリー病治療の基本は酵素製剤を2週間に1回点滴静注する酵素補充療法です。また近年、α-ガラクトシダーゼの立体構造を安定化することによって本来の酵素の働きを促進するシャペロン療法が認可されています(治療反応性のある遺伝子変異を伴う16歳以上の患者さんが対象)。臓器障害が進行すると治療効果が得られにくいため、早期発見が強く求められます。しかし、遅発型のうち腎機能が障害されるタイプ(腎型)は自覚症状に乏しく、放置されがちと考えられます。腎臓を含む様々な臓器に障害が現れるファブリー病は、あらゆる診療科が遭遇する可能性がありますので、代表的な症状を多くの先生方に知っていただきたいと思います。健診などで蛋白尿を指摘された患者さんは、古典型によくみられる症状はないか、家族・親戚に腎疾患患者はいないかなどに留意して問診し、尿沈渣所見をしっかりと確認することも大切です。少しでもファブリー病が疑われる患者さんに遭遇した場合は、酵素活性測定や当センターのような専門施設への紹介をご考慮ください。

幼少期から症状を抱えているにもかかわらず、診断されないまま苦しんでいるファブリー病の患者さんは少なくないと思われます。また、壮年期になって初めて腎症状や心症状が出現し、ファブリー病と気づかれないケースも存在します。これらの患者を見過ごすことのないよう、各診療科が協力してファブリー病患者の早期発見、早期治療に努めていきましょう。

医療機関名称 東京医科大学茨城医療センター 腎臓内科
住所 〒300-0395 茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1
電話番号 029-887-1161(代表)
医師名 兼任准教授 下畑 誉(しもはた ほまれ)先生
ホームページ http://ksm.tokyo-med.ac.jp/Page/Shinryou/Ippan/JinzouNaika/index/外部サイトを開く