早期発見は、患者さんご本人だけでなく次の世代にも早期治療の恩恵をもたらします

  • 診療科循環器内科
  • エリア高知県南国市

久保 亨(くぼ とおる)先生

高知大学医学部 老年病・循環器内科学講座 講師

久保 亨(くぼ とおる)先生

糖脂質の異常蓄積によって引き起こされるライソゾーム病の一種

老年病・循環器内科では、心筋症、中でも肥大型心筋症の臨床と研究に注力してきた歴史があり、鑑別すべき疾患のひとつであるファブリー病の診療にも積極的に取り組んできました。

ファブリー病は、加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の遺伝的欠損、あるいは活性低下により、本来分解されるべき糖脂質のグロボトリアオシルセラミド(Gb3)がライソゾーム内に異常蓄積することによって引き起こされる、ライソゾーム病の一種です。古典型では小児期に四肢末端痛や低汗症、被角血管腫などが現れ、成人以降に心臓・腎臓・脳の重要臓器にも障害が及びます。一方、遅発型では主に中年期以降、各重要臓器にほぼ限局して障害が現れます。X連鎖性の遺伝形式をとり、通常、ヘテロ接合体である女性は男性に比べて軽症で進行も緩徐ですが、なかには男性同様に重症化することもあります。

循環器領域でファブリー病を疑うポイントのひとつは中年期以降のびまん性心肥大

当科では遅発型で、心障害が主体のファブリー病を中心に診療しています。このタイプのファブリー病は心肥大を主徴とし、進行性に悪化して心不全や心室頻拍などの致死性不整脈に至ります。肥大型心筋症(壁厚15mm以上)と診断されている男性患者177例を対象とした私たちの検討では、2例(1.1%)がファブリー病と診断されました1)。海外で行われたスクリーニング研究でも、肥大型心筋症の男性患者の1.4%(278例中4例)2)、0.9%(328例中3例)3)、女性患者の1.1%(180例中2例)3)がファブリー病と診断されています。ファブリー病は、心肥大患者の中に少なからず存在する可能性があります。

循環器領域でファブリー病を疑うポイントとしては、中年期以降のびまん性心肥大が挙げられます。臨床的に類似した他の心筋症との鑑別法として私たちは高感度心筋トロポニンTに注目しており、ファブリー病やアミロイドーシスに代表される蓄積性疾患による心肥大患者では、肥大型心筋症患者に比べて高感度心筋トロポニンTが有意に高値であったことを報告しています4)。高感度心筋トロポニンTは、病因鑑別において心エコー指標よりも有用である可能性があります。

確定診断に向けては病型、性別を問わず、まずは血液中の酵素活性を測定します。男性は酵素活性測定でほぼ診断可能ですが、女性は酵素活性のばらつきが大きく、血液中の酵素活性が正常であっても本症である可能性が残るため、血液中や尿中に蓄積する糖脂質を確認する生化学検査、皮膚や心臓、腎臓などの生検組織を用いた病理検査、遺伝学的検査および家族歴聴取を組み合わせて診断する必要があります。最近では、Gb3を構成する脂肪酸部分が脱落したグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)が有力なバイオマーカーとして注目されています。

酵素補充療法により心機能の維持が期待できる5)

ファブリー病の治療法としては、酵素製剤を2週間に1回点滴静注することでα-Gal活性を改善させる酵素補充療法があります。10年間の酵素補充療法によって心肥大および心機能の改善または維持が報告されています5)。進行した臓器障害に対しては治療効果が得られにくいため、早期に発見し、臓器障害が発症・進行する前に治療を開始することが望まれます。また、α-ガラクトシダーゼの立体構造を安定化することによって本来の酵素の働きを促進するシャペロン療法も認可されています(治療反応性のある遺伝子変異を伴う16歳以上の患者さんが対象)。心症状に対する対症療法としては、肥大型心筋症の治療に準じてβ遮断薬や抗不整脈薬の処方、高度の房室ブロックが現れた場合や心室性致死性不整脈の治療には、全身状態も鑑みてデバイスの植込みを検討しています。

ファブリー病の症状は多彩であり、多くの診療科で遭遇する可能性があります。早期発見のためには疾患への理解を深め、自身の診療科で対峙するかもしれない症状を把握することが必要です。早期発見により、患者さんご本人はもちろん、発症リスクを有する次の世代にも早期治療の恩恵をもたらすことができます。循環器内科医に対しては、専門領域の視点のみにとどまらず、一内科医として全身を評価した上で心臓を診るという姿勢も重要であることをお伝えしたいと思います。

  1. Kubo T, et al.: J Cardiol 69(1): 302-307, 2017
  2. Hagège AA, et al.: Heart 97(2): 131-136, 2011
  3. Monserrat L, et al.: J Am Coll Cardiol 50(25): 2399-2403, 2007
  4. Kubo T, et al.: BMC Cardiovasc Disord 15: 53, 2015
  5. Kampmann C, et al.: Orphanet J Rare Dis 10: 125, 2015
医療機関名称 高知大学医学部 老年病・循環器内科学講座
住所 〒783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮
電話番号 088-880-2352(医局代表)
医師名 講師 久保 亨(くぼ とおる)先生
ホームページ http://www.kochi-u.ac.jp/kms/fm_gratr/外部サイトを開く

医療機関名称 高知大学医学部附属病院 老年病・循環器内科
住所 〒783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮185-1
電話番号 088-866-5811(病院代表)
医師名 病院准教授 久保 亨(くぼ とおる)先生
ホームページ http://www.kochi-u.ac.jp/kms/hsptl/外部サイトを開く