総合診療内科医として、ファブリー病の早期診断に努めています

  • 診療科腎臓内科/総合診療内科
  • エリア埼玉県

中元 秀友(なかもと ひでとも)先生

埼玉医科大学/総合診療内科 教授

中元 秀友(なかもと ひでとも)先生

多彩な症状を呈するファブリー病

私はこれまで、10例以上のファブリー病患者さんの診療にあたってきました。ファブリー病は、ライソゾーム内の加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損または活性低下により、糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が分解されずに細胞内に異常蓄積することによって発症する、X連鎖性の遺伝性疾患です。

ファブリー病の症状は多岐にわたります。男性で小児期に発症する古典型では四肢末端痛や発汗障害、角膜混濁、難聴などがあり、成人以降に発症する遅発型では心肥大や心房細動、腎障害、脳血管障害などが代表的な症状です。ヘテロ接合体となる女性はα-Gal活性が著明に低下する方から正常範囲の方まで様々で、症状の有無や発現時期、重症度に幅があります。

当科は総合診療内科として、原因不明のあらゆる症状の患者さんを診療しています。そのため、ファブリー病を早期に顕在化する上で果たすべき役割は非常に大きいと感じています。

原因不明の腎障害、心障害、脳血管障害が重複する症例ではファブリー病の潜在を疑う

私が初めてファブリー病の患者さんに出会ったのは約20年前になります。原因不明の腎障害があり、腎生検を行ったところzebra body(層板状構造物)が認められました。これはファブリー病に特徴的な腎生検所見であるためα-Gal活性の測定を実施したところ、活性低値が示され、確定診断に至りました。

ファブリー病が顕在化するきっかけとしては、原因不明の腎炎や腎硬化症などの腎障害、心肥大、心房細動をはじめとする不整脈、脳血管障害が多く、これらが重複する症例、特に若年の症例では積極的にファブリー病の潜在を疑います。四肢末端痛や発汗障害などの既往を患者さんに尋ねてみることで診断の手がかりが得られることもあります。
腎臓専門医の立場からは、前述の電顕像でのzebra bodyのほか、尿沈渣中のmulberry小体(渦巻状構造を呈する脂肪球)もファブリー病を疑うべき重要な所見です。また、Gb3の誘導体であるグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)の血漿中濃度がファブリー病のバイオマーカーとして注目されており、当科でも、その高値をきっかけに無症状の女性患者さんを早期に診断できた経験があります。

これらの症状・所見を確認し、家族歴も聴取した上でα-Gal活性測定を実施するのが一般的な診断手順であり、男性の場合は活性低下が示されれば、ほぼ確定診断となります。男性のファブリー病疑い例であれば、乾燥ろ紙血検体のα-Gal活性測定により簡便にスクリーニングすることもできます。一方、明らかな活性低下が認められないことがある女性の場合は、α-Gal活性測定のみでは診断できないため、遺伝子検査も考慮します。

確定診断後は速やかに治療を開始

ファブリー病の診断が確定した際は、速やかに治療を開始することが勧められます。治療法の一つとして、α-Gal製剤を点滴静注する酵素補充療法があります。2週間ごとの通院を継続する必要があるため、患者さんとのコミュニケーションを密にし、治療継続の重要性を十分に理解していただけるよう努めています。

2018年からは、低分子化合物を経口投与することで残存酵素の構造を安定化させ、酵素活性を上昇させるシャペロン療法が、ファブリー病の治療選択肢に加わりました。今後もファブリー病治療のさらなる進化に期待しています。

また、ファブリー病の臓器障害への対症療法としては、心房細動に対するアブレーションや抗凝固薬による血栓症予防、腎障害に対する血圧管理や食事療法、末期腎不全に対する透析治療などを行っています。

ファブリー病を疑い、早期に診断するために、疾患啓発と病態理解が必要

ファブリー病は、どの診療科の医師も遭遇する可能性がある疾患です。ファブリー病を早期に診断するためには、ファブリー病を知っておくこと、そして疑わしい症状からすぐにファブリー病を想起できるように、病態を理解しておくことが必要です。積極的に疑わなければ、診断にはたどり着きません。少しでも疑わしい症例に出会った際は、経過観察とするのではなく、早めに専門医に紹介していただきたいと思います。当科ではファブリー病の診療経験を有する総合診療医を配し、原因不明の症状の中にファブリー病が潜在していないかという意識を持って患者さんに接しています。いつでもご相談ください。

医療機関名称 埼玉医科大学 総合診療内科
住所 〒350-0495 埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38
電話番号 049-276-1111(番号案内)
医師名 教授 中元 秀友(なかもと ひでとも)先生
ホームページ http://www.saitama-med.ac.jp/hospital/外部サイトを開く