統合失調症に対するラツーダの適切な用量とは

本動画では「統合失調症に対するラツーダの適切な用量とは」をテーマに、フィンランドの大規模コホート研究を中心に抗精神病薬の適切な用量について振り返りながら、実臨床におけるラツーダ用量を急性期と維持期に分けて、藤田医科大学医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生先生よりご解説頂きます。ぜひご視聴ください。

動画の内容の詳細データについては以下をご覧ください。

統合失調症治療におけるラツーダの開始用量は、40mgです。

「禁忌を含む注意事項等情報」等はページ下部の製品基本情報(適正使用情報など)をご参照ください。

統合失調症に対するラツーダの開始用量が40mgとなった経緯

国内第2b相試験(用量探索試験)
ラツーダ20mg群では有効性が確認されず、原疾患の悪化による中止例が67例中18例(26.9%)に認められました。

(参考)ラツーダ20mg群の患者背景
年齢平均値(±SD):44.7±10.8歳      PANSS合計スコア平均値(±SD):83.3±19.6

本結果から、統合失調症に対するラツーダの開始用量を20mgとすることに有効性と安全性上の懸念が残りました。

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国内第2b相試験の結果を踏まえて実施されたPan-AsiaP3試験、Pan-Asia追加P3試験で、ラツーダ40mgを開始用量とすることに問題がないことが確認され、海外と同様、ラツーダは日本においてもその開始用量が40mgとなりました。

 6. 用法及び用量(一部抜粋)〈統合失調症〉
通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。 

PANSS:Positive and Negative Syndrome Scale

社内資料:国内P2b試験(P2-J001)【承認時評価資料】

モーズレイ処方ガイドラインで、ラツーダの最小有効用量は、 初発エピソード・複数エピソードともに、40mgと位置付けられています

                    
●第二世代抗精神病薬(SGAs)の最小有効用量
第二世代抗精神病薬初発エピソード複数エピソード
Amisulpride※1 300mg 400mg
アリピプラゾール 10mg 10mg
アセナピン 10mg 10mg
ブロナンセリン 不明 8mg
ブレクスピプラゾール 2mg 4mg※2
Cariprazine※1 1.5mg 1.5mg
Iloperidone※1 4mg 8mg
Lumateperone※1 不明 42mg
ルラシドン 40mg(塩酸塩)/37mg(塩基) 40mg(塩酸塩)/37mg(塩基)
オランザピン 5mg 7.5mg
パリペリドン 3mg*、※2 3mg※2
Pimavanserin※1 不明 34mg**
クエチアピン 150mg(高用量が使用されることが多い) 300mg
リスペリドン 2mg 4mg
Ziprasidone※1 40mg 80mg

*:推定値(データが少ないため)  **:FDAではパーキンソン病を適応として承認された。統合失調症に対する用量は不明。
※1:本邦未承認  ※2:本邦承認外用量

Taylor DM, et al.:The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry 14th Editionより一部改変

統合失調症薬物治療ガイドライン2022

CQ1-2 急性期の統合失調症で抗精神病薬の効果が不十分な場合に、切り替えと増量のどちらが適切か?

【準推奨】
急性期の統合失調症患者において抗精神病薬の効果が不十分な場合、精神症状の改善効果を得るためには、十分量までは増量すべきである。また、もともと服用していた抗精神病薬から別の抗精神病薬に切り替えることにより、精神症状の改善がもたらされる可能性もある。
以上により、抗精神病薬の効果が不十分なケースには、十分量までの増量を行うか、切り替えを検討することが望ましい。

日本神経精神薬理学会 日本臨床精神神経薬理学会編:統合失調症薬物治療ガイドライン2022
本ガイドライン作成メンバーに大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)より講演料等を受領したものが含まれている。

JEWEL継続試験 (国際共同試験)

本試験は承認外用法の成績が含まれるデータですが、本試験の結果も評価され、承認されたため掲載いたします。

社内資料:統合失調症患者を対象とした非盲検継続投与試験(JEWEL継続試験)【承認時評価資料】

JEWEL試験においてPANSS合計スコアの改善率が20%未満であった患者集団におけるPANSS合計スコアの変化量は、ラツーダ最頻投与量40mg群では-6.2、80mg群では-10.7でした。

●国際共同第3相継続試験(JEWEL継続試験/P3E-J067試験)
(統合失調症患者を対象とした非盲検継続投与試験)

【目的】
国際共同第3相試験(JEWEL試験)を完了した統合失調症患者にラツーダ(40mg/日及び80mg/日)を長期投与したときの安全性と有効性を評価する。

【対象】
JEWEL試験を完了した統合失調症患者289例(プラセボ→ラツーダ4 0 - 8 0mg 群1 4 1例、ラツーダ40mg→ラツーダ40-80mg群148例)

【試験デザイン】
多施設共同、非盲検試験

【方法】
ラツーダ40mg又は80mgを1日1回、夕食時又は夕食後に12週間経口投与した。対照薬は設定しなかった。すべての患者はDay 1からDay 7まで非盲検でラツーダ40mg/日を投与された。Day 8以降、臨床的に必要と判断された場合には80mg/日に増量することを可とした(増量前にPANSS合計スコア及びCGI-Sスコアを評価した)。増量は1週間間隔で可能とした。忍容性を理由とした減量は治験中いつでも可とした。
※:本邦での承認用法は食後経口投与

【安全性評価項目】
有害事象又は治験薬投与に関連した有害事象の発現頻度、重篤な有害事象及び治験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度など

【有効性評価項目】
各来院時のPANSS合計スコアのベースライン(二重盲検治療期及び非盲検治療期)からの変化量など

【解析計画】
安全性解析対象集団を対象として安全性データを解析した。安全性解析対象集団は本試験の治験薬を1回以上投与されたすべての患者とした。ITT集団を対象として有効性データを解析した。ITT集団は、本試験の治験薬を1回以上投与され、JEWEL試験及び本試験のベースライン値があり、かつ少なくとも1つの本試験のベースライン後のPANSS合計スコアがあるすべての患者と定義した。有意水準及び多重性の調整に関しては本試験で仮説はなかった。また、事前に計画されたサブグループ解析として、JEWEL試験での効果不十分例を対象にラツーダ80mgへの増量によるPANSS合計スコアの変化量を検討した。

●最終評価時(LOCF)及び12週時のPANSS合計スコアのベースライン(二重盲検治療期及び非盲検治療期)からの変化量

最終評価時(LOCF)のPANSS合計スコアの二重盲検治療期ベースラインからの変化量(平均値±SD)は、プラセボ→ラツーダ40-80mg群-27.8±18.25(n=141)、ラツーダ40mg→ラツーダ40-80mg群-30.9±16.82(n=146)、12週時ではそれぞれ-30.8±15.67(n=119)、-33.2±15.70(n=123)でした。また、非盲検治療期ベースラインからの変化量は、最終評価時(LOCF)ではそれぞれ-10.2±14.60(n=141)、-7.6±11.80(n=146)、12週時ではそれぞれ-11.5±13.83(n=119)、-9.5±10.87(n=123)でした。

●JEWEL継続試験におけるラツーダ最頻投与量別にみたJEWEL継続試験12週時(LOCF)のPANSS合計スコアの非盲検治療期ベースラインからの変化量〔サブグループ解析〕

副作用発現頻度は、プラセボ→ラツーダ40-80mg群36.9%(52/141例)、ラツーダ40mg→ラツーダ40-80mg群32.4%(48/148例)でした。

●安全性情報

本試験における重篤な副作用は、プラセボ→ラツーダ40-80mg群5例6件[統合失調症4件、衝動行為、自殺企図各1件]、ラツーダ40mg→ラツーダ40-80mg群3例3件[統合失調症3件]に認められました。
投与中止に至った有害事象は、プラセボ→ラツーダ40-80mg群10例[統合失調症6例、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加、QT延長、背部痛、衝動行為各1例]、ラツーダ40mg→ラツーダ40-80mg群8例[統合失調症5例、不安、血管浮腫、蕁麻疹各1例]に認められました。
試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

                    
●副作用発現状況 (いずれかの群で発現頻度2%以上)
安全性解析対象集団
プラセボ→
ラツーダ40-80mg群
(n=141)
ラツーダ40mg→
ラツーダ40-80mg群
(n=148)
副作用 52(36.9%) 48(32.4%)
胃腸障害 15(10.6%) 9(6.1%)
 悪心 7(5.0%) 3(2.0%)
 便秘 4(2.8%) 3(2.0%)
臨床検査 14(9.9%) 18(12.2%)
 血中プロラクチン増加 3(2.1%) 7(4.7%)
神経系障害 17(12.1%) 19(12.8%)
 アカシジア 12(8.5%) 7(4.7%)
 頭痛 3(2.1%) 5(3.4%)
精神障害 16(11.3%) 10(6.8%)
 統合失調症 4(2.8%) 3(2.0%)
 不眠症   4(2.8%) 2(1.4%)

例数(%)

MedDRA version 19.1

国内承認用量であるルラシドン40~80mgでは、臨床効果が期待される脳内ドパミンD2受容体占有率を示しましたが、20mgでは同様の結果が得られませんでした。

●ルラシドン投与量と脳内ドパミンD2受容体占有率の関係性(投与後1.5時間)(外国人データ)

【対象】
米国人健康成人男性20例

【方法】
非盲検、用量漸増投与、逐次的試験。米国人健康成人男性にルラシドン10mg、20mg、40mg、60mg、80mgの5投与量を単回経口投与し、投与後1.5時間にPET(PETリガンド:[11C]ラクロプライド)により脳内ドパミンD2受容体占有率を測定した。

 6. 用法及び用量(一部抜粋)〈統合失調症〉
通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。 

PET:positron emission tomography

社内資料:海外PET試験

ドパミンD2受容体占有率70~80%がtherapeutic windowとして考えられています。

●PETによる抗精神病薬の至適用量の検討

舘野 周.:臨床精神薬理., 14:334, 2011より改変

急性期統合失調症治療におけるラツーダの使い方

●ラツーダを40mgから開始し、忍容性及び有効性を確認しながら、1週間程度で(患者の状態によっては翌日に)80mgに増量する。

注)

  • 精神運動興奮が強い場合には、必要に応じて静穏作用のあるオランザピン筋注などを投与する(入院1~3日目)
  • 不眠が強い場合は、睡眠薬を一時的に併用する
  • 前薬の抗コリン作用が強い場合は、ラツーダは上乗せして前薬を漸減する

 6. 用法及び用量(一部抜粋)〈統合失調症〉
通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。 

監修:医療法人静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 理事長 藤田 潔 先生

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