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- DLBに伴うパーキンソニズムに対するゾニサミド 追加とレボドパ増量投与の非劣性比較試験 -DUEL試験-
DLBに伴うパーキンソニズムに対するゾニサミド 追加とレボドパ増量投与の非劣性比較試験 -DUEL試験-
Efficacy of Adjunctive Therapy with Zonisamide Versus Increased Dose of Levodopa for Motor Symptoms in Patients with Dementia with Lewy Bodies: The Randomized, Controlled, Non-Inferiority DUEL Study
研究代表医師:大阪大学 池田 学 先生
研究計画支援:大阪大学 森 悦朗 先生、上用賀世田谷通りクリニック 織茂 智之 先生
Ikeda M, et al.: J Alzheimers Dis.,95(1):251-264,2023
利益相反:本研究は、住友ファーマ株式会社の研究資金で実施した。著者には住友ファーマ株式会社よりコンサルタント料および研究助成金等を受領している者が含まれる。
研究概要
目的
300mg/日以下のレボドパ製剤で治療されているDLB患者に対して、ゾニサミド25mg/日を24週間追加投与した時の運動機能障害に対する有用性をレボドパ100mg/日の増量群と比較すること、各群における認知機能、BPSDに与える影響を検討することを目的とした。
背景
- レビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムに対するレボドパ製剤の反応性はパーキンソン病(PD)と比較して劣ることが報告されているものの1)、DLBに伴うパーキンソニズムの治療にはPDの治療に準じてレボドパ製剤が推奨されている2)。
- ゾニサミドはレボドパ製剤への追加投与によりDLBに伴うパーキンソニズムに対する有用性が報告され3,4)、DLBに伴うパーキンソニズムの治療薬として承認されている。
- DLBは幻覚・妄想を高頻度で合併するため、パーキンソニズムの治療に際してそれらの悪化を最小限に留める工夫が必要である。従って、レボドパは少量から開始し、幻覚・妄想の悪化(又は発症)に注意しながら、ゆっくり漸増し、必要最低用量で留めておくことが推奨されている2)。
- DLB患者を対象に実施した治療ニーズに関する調査研究において、パーキンソニズムに対する治療ニーズが依然として高く5)、パーキンソニズムの適切な治療が求められている。
- DLBに伴うパーキンソニズムに対して有用な治療法を探索することを目的に、幻覚・妄想の既往があり、レボドパ製剤による治療効果が不十分なDLB患者に対して、100mg/日レボドパ製剤増量もしくは25mg/日ゾニサミド追加のどちらが有用かを確認する非盲検、ランダム化比較試験を実施した。
1)McKeith IG, et al.: Neurology. 2017; 89: 88-100
2)「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会編. 認知症疾患診療ガイドライン 2017; 237-262, 医学書院, 2017.
3)Murata M, et al.: Parkinsonism Relat Discord 2020; 76: 91-97
4)Odawara T, et al.: Am J Geriatr Psychiatry 2022; 30:314-328
5)Hashimoto M, et al.: Alzheimers Res Ther. 2022; 14: 188
試験デザイン
多施設共同、ランダム化、対照、非盲検(第3者評価)、並行群間比較、介入、非劣性試験
対象患者
300mg/日以下のレボドパ製剤で治療されていても治療効果不十分なパーキンソニズムを伴うDLB患者 50例
主な選択基準
-
50歳以上90歳未満の外来患者
-
MDS-UPDRS Part III合計スコアが20点以上
-
同伴可能で、研究協力が可能な介護者有する
-
過去に幻覚もしくは妄想の既往歴を有する
主な除外基準
-
DLB以外のパーキンソン症候群又は認知症を伴うPD患者
-
MMSE合計スコアが10点未満
-
レボドパ以外の抗PD薬の服薬
-
ベンザミド系抗精神病薬、クエチアピン以外の抗精神病薬の服薬
-
ゾニサミドの服薬歴を有する
【倫理的配慮】
本研究は臨床研究法等の各種法令を遵守し、大阪大学臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(jRCTs051200054)。また、すべての患者、介護者から文書による同意を取得した。
患者背景
評価項目
主治医以外の医療従事者が評価(第3者評価)
主要評価項目
24週時点のMDS-UPDRS Part III 合計スコアのベースラインからの変化量
副次評価項目
下記の評価に対する各評価時期におけるベースラインからの変化量の前後比較及び群間比較又はイベント発生の頻度/期間の群間比較
- MDS-UPDRS Part III、MDS-UPDRS Part IIの合計スコア及び下位項目
- MMSE
- NPI-12
- MDS-UPDRS Part III 合計スコアにおけるレスポンダーの割合 など
副次評価項目
- 副作用
- 転倒リスク評価
- 骨折の有無
- 転倒の怪我による外科的治療の有無 など
解析計画
解析対象
研究期間中に試験薬を1回以上投与され、ベースライン値及び試験薬を服薬した後のMDS-UPDRS Part III合計スコアを有する集団をmITT population、mITT populationの うち登録基準違反、割付違反、重要な研究計画からの逸脱のあった研究対象者を除外した集団をPP populationとした。
主要解析
PP populationを対象に、8、16、24週時点におけるMDS-UPDRS Part III合計スコア変化量を応答変数、投与群、Visit、投与群×Visitの交互作用を固定効果、MDS-UPDRS Part IIIのベースライン値を共変量とするMixed-effects Model Repeated Measures (MMRM)をあてはめ、24週時点における変化量の調整平均値について、25mg/日ゾニサミド追加群から100mg/日レボドパ製剤増量群を差し引いて得られる調整 平均値の差の両側95%信頼区間の上限値が3.0(非劣性マージンは3.0)よりも小さい場合、非劣性が示されたと判断した。
副次解析
MDS-UPDRS Part II、NPI、MMSEなどについて、mITT populationを対象に各評価項目における、各評価時点での合計スコア、下位項目スコア及び変化量を投与群ごとに要約統計量を算出し、各時点における変化量の統計的有意性をWilcoxon順位検定により各投与群及び投与群間で検討した。
ベースラインからの変化量についてはWilcoxon符号順位和検定を用いた。MDS-UPDRS Part IIIにおけるレスポンダーの割合などについては、Fisherの正確検定を用いた。
Limitation
-
本試験では第3者評価を行ったが、二重盲検比較試験ではなかったため、測定バイアスを完全に排除することは不可能であった。
-
COVID-19の影響で予定された被験者数を登録することができず、検出力が不足していた。
-
対照薬としてのレボドパの増量が100mg/日に制限されていたため、レボドパ増量の有効性は未確認である。
主要評価項目
- MDS-UPDRS Part III合計スコア -
MDS-UPDRS Part III 合計スコアのベースラインからの変化量の推移(24週時) ※[副次評価項目]:8週時、16週時
24週時のMDS-UPDRS Part III合計スコアのベースラインからの変化量は、 25mg/日ゾニサミド追加群で-4.4±2.4、100mg/日レボドパ製剤増量群で2.0±2.5でした。
24週時点における両群間の調整済み平均値の差は-6.4でした。
調整済み平均値±SE
PP population
MDS-UPDRS Part III 合計スコアのベースラインからの変化量の群間差 (24週時)
両群間の調整済み平均値の群間差の95%信頼区間上限は0.7で、24週時点における非劣性マージン※の3.0を下回りました。しかし、レボドパ製剤増量群において24週時のスコア低下が認められなかったため、ゾニサミド追加がレボドパ製剤増量と同程度のパーキンソニズムを改善するという仮説=非劣性は検証されませんでした。
群間差は、〔25mg/日ゾニサミド追加群のスコア変化量ー100mg/日レボドパ製剤増量群のスコア変化量〕により算出した。
調整済み平均値(95%信頼区間)
MMRM、PP population
※非劣性マージン=対照薬よりも劣る幅として臨床的に許容される最大のレベル
副次評価項目
- MDS-UPDRS Part III(下位項目) -
- MDS-UPDRS Part III レスポンダーの割合 -
- MDS-UPDRS Part II -
- MMSE -
- NPI-12 -
MDS-UPDRS Part III 下位項目のベースラインからの変化量(24週時)
25mg/日ゾニサミド追加群は、「言語」、「筋強剛」、「手の回内回外運動」の項目について、100mg/日レボドパ製剤増量群と比較して有意なスコア低下を示しました。
MDS-UPDRS Part III 合計スコアにおけるレスポンダーの割合 (24週時)
ベースラインからの改善率が10%以上、20%以上、30%以上であったレスポンダーの割合は、ゾニサミド追加群で、それぞれ44.0%、28.0%、16.0%でした。
いずれも統計学的有意差は認められませんでした。
Fisherの正確検定
mITT population
MDS-UPDRS Part II 下位項目のベースラインからの変化量(24週時)
25mg/日ゾニサミド追加群は、「唾液とよだれ」、「摂食動作」、「着替え」の項目について、100mg/日レボドパ製剤増量群と比較して有意なスコア低下を示しました。
MMSE 合計スコアのベースラインからの変化量(24週時)
25mg/日ゾニサミド追加群、100mg/日レボドパ製剤増量群のいずれも、ベースラインと比較して有意な悪化は認められませんでした。
また、両群間の比較においても有意な変化は認められませんでした。
平均値(SD)
mITT population
【参考情報】MMSE 下位項目のベースラインからの変化量(24週時)
NPI-12 合計スコアのベースラインからの変化量(24週時)
25mg/日ゾニサミド追加群、100mg/日レボドパ製剤増量群のいずれも、ベースラインと比較して有意な悪化は認められませんでした。なお、100mg/日レボドパ製剤増量群は、25mg/日ゾニサミド追加群と比較して有意なスコア低下を示しました。
平均値(SD)
mITT population
【参考情報】NPI-12 下位項目のベースラインからの変化量(24週時)
安全性
副作用は、25mg/日ゾニサミド追加群において 1/25例(4.0%)、100mg/日レボドパ製剤増量群において 4/24例(16.7%)に認められました。
MedDRA version 24.1
結論・考察
結論
有効性について
-
ゾニサミドの追加投与によりパーキンソニズムの改善傾向が示され、対照としたレボドパ製剤増量投与に対する非劣性検定自体は成立したものの※、レボドパ増量で24週時におけるパーキンソニズムの改善が認められなかったため、ゾニサミドがレボドパと同程度のパーキンソニズムを改善するという仮説=非劣性は検証されなかった。
※ 非劣性検定の成立条件=両群間の調整済み平均値の群間差の95%信頼区間上限が24週時点における非劣性マージンの3.0を上回らないこと
安全性について
- これまでの知見から予測できない新たな有害事象・副作用は認められなかった。
考察
-
主要評価項目として設定した24週時点におけるMDS-UPDRS Part III合計スコアの変化量の差において非劣性検定自体は成立したが、100mg/日レボドパ製剤増量群において運動症状改善作用が認められなかった。
⇒ ゾニサミド追加投与の有効性を示すためには、更なる検討が必要である。