【POINT.2】残薬を解消する処方提案で医師と協働し患者さんの低血糖を防止

篠原 久仁子 氏フローラファーマシーグループ 薬局 恵比寿ファーマシー(東京都)/ 代表取締役・薬学博士

積極的なICT活用でフォローアップを適切に実施

茨城県のひたちなか地域では、残薬のプロトコールになって運用されていますが、10年以上に渡るこうした情報提供の積み重ねによって、今では連携するいくつかの医療機関から調剤後薬剤管理指導の依頼を受けるようになっています。医療機関からフォローアップを依頼されるには、信頼関係の構築が大切だと考えます。

近隣のクリニックからフォローアップを依頼されるようになったキッカケの症例があります。ある糖尿病患者さんが、「処方された薬を貰っていない」ということで来局されたのです。

当薬局では、可能な限り調剤業務をICT化しています。調剤過誤防止システムで処方箋を二次元バーコードで管理していますし、医薬品もGS1コードで管理しています。処方箋と薬のコードを照合した上で目視チェックも行い、カメラ撮影し記録として残しています。

このような厳重な過誤防止の取り組みを行っているにもかかわらず、「薬を貰っていない」とおっしゃるわけです。早速、調剤過誤防止システムで確認したところ、確かにお渡ししていることが判明しました。撮影データも残っていました。そのため、認知症の疑いがあるのではないかと考え、ご自宅にある薬を全部持ってきていただきました。すると、確かに薬はなかったのですが、他の飲み薬もインスリンも残薬がいっぱいあったのです。アドヒアランスの不良が強く疑われました。

その状況を医師に情報提供したところ、娘さんに関わってもらったほうが良いとの判断で、娘さんに服薬を確認していただくようにしました。すると、インスリンも打ててなかったようで、飲み薬も正しく服用できていないことが分かってきました。

HbA1cは9%近くの数値だったのですが、インスリンを正しく打っている場合と、打てていない結果の9%では、治療法が全く異なります。認知症によるアドヒアランスの不良が考えられましたので、残薬解消のために医師との協議が必要になりました。

医師は、患者さんがインスリンを打てていると考えておられましたし、ましてや残薬が大量にあることを知らないで処方をなさっていましたから、コントロールが悪いままだとインスリンの単位を増やさざるを得なくなります。医療の安全性が損なわれる危険がありましたので、医師との協議を行いました。薬剤師による服薬指導で、解決できる症例ではないと判断したからです。

医師と薬剤師が協働し患者さんの低血糖を防止

近年、地域におけるチーム医療が叫ばれています。一方で、「対物業務から対人業務への転換」が叫ばれ、薬剤師による投与後のフォローと介入が進められています。

しかし、連携に基づいた信頼関係が構築されていないにもかかわらず、いきなり処方提案などしても、医師からは受け入れてもらえません。最も受け入れられやすいのが、残薬問題なのです。患者さんの病態を考慮して決定した処方を、まさか飲んでいない、打っていないとは医師は考えません。ですから、まず、飲めていない、打てていないという状況を報告することが何より重要なのです。その上で、その残薬問題を解決するための処方や服薬支援方法の提案を行うのならば、医師は快く受け入れてくださることが多いと思います。

この患者さんの場合、お一人では適切に打てないことが分かりましたので、娘さんにご協力いただくことになりました。娘さんの見守りのもとで1日朝1回のインスリンに変更しました。これで正しく打てるようになりましたが、次の問題は、正しく打てるようになった場合の血糖値の経過です。本当の意味における服薬期間中のフォローアップが必要となります。そのため、当薬局が利用している、血糖値や血圧などの各種健康データを管理できるアプリでモニタリングし、その検査値も医師に情報提供しました。

娘さんのご協力で血糖値はある程度改善したのですが、しばらくするとそれ以上、下がらなくなりました。いろいろ原因を探りましたが、注射を同じ部位に打ち続けたためにできる「しこり」に、注射している可能性も考えられました。そこで医師ではなく看護師さんに、次回の診察日には注射している部位を確認していただくようお願いしました。その日の診察には私も立ち会わせていただいたのですが、やはり「しこり」に打っていたのです。「しこり」は吸収が悪くなりますので、効き目も低下してしまいます。そのため、患者さんには「しこり」がない部位に打つよう看護師さんと連携して指導しましたが、今度は効き過ぎによる低血糖が心配されます。そこで、再びモニタリングを継続することになりました。

糖尿病患者さんのフォローアップで私が心掛けていることは、アドヒアランスが良好に保たれた上で医師が適正な処方量の減量や増量の指示を出せるように、次回診察日より事前にモニタリング結果と服薬状況の改善支援を医師に提供していることです。こうした情報提供を続けることで医師との信頼関係が深まり、例えば高血糖が続く患者さんや、重症低血糖を起こす患者さんなどのフォローアップを、医師から少しずつ依頼されるようになっています。