【POINT.2】行動変容モデルと性格タイプ別アプローチにより、患者さんに合わせ支援

黒田 泰司 氏まこと薬局 / 代表取締役

患者さんが自ら決定するように促して、自身で「決めたこと」は後押しする

自分なりに患者さんとのコミュニケーションを工夫して、うまくいく人とうまくいかない人がいます。前述の「3☆ファーマシスト研修」を通じて、患者さんの生活環境と行動変容に対する心の準備状態を分析することで、その患者さんに合った支援ができることが分かりました。

そのなかで用いる行動変容モデルは1980年代前半に登場し、食事や運動、健康に関する行動についても幅広く研究と実践が進められています。基本的に人の行動・生活習慣を変えるステージには、無関心期、関心期、準備期、実行期、そして維持期の5つがあるとされています。

糖尿病と診断された当初、例えば40代で多忙、HbA1cがちょっと高いとは言われたが、痛みも痒みもない。そのため自分の病気に興味が無く、行動を変える気が無い。こういう時期を無関心期と言います。その後、分かってはいるけど変えられない関心期、療養行動はまだ始めていないが、自分なりに試してみたり、きっかけがあればいつでも開始できる状態の準備期、変えてから6ヵ月以内の実行期、それ以降の維持期と、5つの段階に分けられます。

加えて性格タイプ別アプローチといって、性格タイプを左右に外交型、内向型、上下に理論型、感情型の評価軸により4つに区分します。例えば、よく言われる「大阪おばちゃんタイプ」は感情豊かにしゃべりまくって止まらない右下の黄色タイプ。経営者に多いのは理論的かつ外交的で意味のない話はしない右上の赤色タイプと呼び、その性格タイプ別モデルを考えます。 

例えば初診の患者さんであれば、私は薬局の入り口、あるいは待合室で待っておられるときに様子を観察します。5段階の行動変容モデルと性格別タイプモデルとを組みあわせ、その方のニーズを汲み取って話しています。

例として2型糖尿病の40歳代の男性。スーツ姿で薬局に入ってこられた初診の患者さんで、立ったまま、ちらちらと時計を気にしています。私は赤色タイプで、自分の病気にも薬剤師にも興味が無い無関心期の方だと判断します。その場合、「○○の薬が出ています」「○○の状態の時に使う薬です」「何か質問はありますか?」と端的に終わらせます。

一人ひとり性格タイプも関心度合いが違うにも関わらず、一般的な薬剤師であれば全員に「この薬は○○で、副作用は○○なので、○○になったら服用は止めてください・・」など、同じような知識を伝えて投薬を終える場合が少なくないと思います。しかし、赤色タイプは、「早くしろ!」「ネットで調べるし、俺には必要ない!」など怒り出す場合もあると思います。ニーズが無いのに無理やり押し付けても嫌がられるだけです。

その後、赤色タイプの患者さんも、何度か来局され、お正月明けにHbA1c値がすごく上がっていました。「検査値が変わってますが、何かありましたか?」「実は・・・」と患者さんから話した時がチャンスです。

「いまは○○の状態だと思います」「食事や運動で○○するといいかもしれませんね」と独り言のように話し、もし「もっと教えてくれる?」という反応があればニーズがあると考え「正月に食べ過ぎた人で、早歩きの散歩を始められた方もいらっしゃいますね。」「じゃ、歩くわ!」と応じれば、それを後押し、支援します。

2型糖尿病予備軍や血糖値高めの人の発症や合併症の予防をめざす

現在、自己持続血糖測定器を使って2型糖尿病患者の生活習慣改善に介入するという、岡田先生の臨床研究に参加しています。測定器は高度医療機器に分類され、インシュリンを使っている方は保険適用になります。測定方法は皮膚に貼付したセンサーで約2週間、血糖変化をスマホアプリ上で24時間測定でき、そのデータはAGP(Ambulatory Glucose Profile)レポートとして確認できます。

センサーを5回付ける介入群と2回付けるコントロール群に分けられますが、いずれも1クール(2週間)後のAGPレポート内容の意味について患者さんに説明します。

介入群では、さらに血糖値を上げる食材のことや食べた後にすぐ運動すると血糖値が下がること、炭酸飲料に含まれる糖分量と、その消費のための運動量など、岡田先生が作成された資料を用いた介入をします。具体的な対処事例を見せ、例えば「野菜ファーストで食事してみよう」と患者さん自身が言えば、「じゃあ、やってみましょう!」と後押しし、次の二週間後に確認、その時に患者さんが、別の何かを決めれば後押しします。

測定器を付けている間、「お酒を飲んだら血糖値が上がった」「運動したら改善した」など、自分の体がどうなっているかをリアルタイムで知ることができます。血糖値が上がりやすい食材もそれぞれ違い、運動結果も反映されるので、行動変容を起こしてもらえる研究プロジェクトだと考えています。

ただし、困るのは、患者さんが頑張り過ぎる場合です。例えば高血糖の人が食事量を極端に減らしたり、毎日サラダと鶏肉だけなど、急に頑張り過ぎると網膜症など合併症が危惧されますし、ご家族の食生活も心配です。ご家族を含め、継続できることを患者さんと一緒に考え、一緒にやっていくことが大事です。

犬を飼い散歩をしている方には、「運動してますね」と認めることができます。それでも血糖値が高ければ食べ過ぎなのかなと、患者さんの生活・背景に触れられる薬局薬剤師ができることは、まだまだ多いと思います。

今後は、自費にはなりますが、2型糖尿病予備軍や血糖値が高いと言われた、主に40代、50代の方に測定器を使っていただき、糖尿病の発症予防や合併症の予防につなげていきたいと考えています。