【POINT.2】患者さんとの面談を通じ行動目標を設定し、その実践を支援

江田 一樹 氏しんわ薬局立川店

立川市の「糖尿病性腎症の重症化予防プログラム」に参画

立川市では福祉保健部 保険年金課が事業主体となって、糖尿病性腎症の重症化予防を目的とした患者自己管理支援プログラムを実施しています。主治医と薬局薬剤師との連携が前提で、実施者は立川市薬剤師会会員の薬局薬剤師、協力施設は立川市の診療所やクリニックとなります。

同プログラムに参加するためには、患者支援に必要な教育研修プログラムの受講が必要で、私も初級、中級の2回受講しました。対象となる方は、2型糖尿病性腎症の2期、3期の通院治療をしており、主治医が適切と判断した方です。その上で、立川市国民健康保険加入者である、男女問わず原則40歳以上72歳未満、薬剤師から同プログラムの説明を受けて同意が得られた方、精神疾患を有しない、がん治療中ではない、など8つの条件が満たして初めて対象となります。

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プログラムのスキーム

具体的には、薬局の面談スペースで、参加者の主治医の日常生活に関する指示に則って、行動目標を設定し、実践してもらうよう動機づけのアプローチで薬剤師が支援するというコーチングプログラムになります。初日のオリエンテーションでプログラム内容の説明と面談等のスケジュールを説明し同意を得た上で、参加申込書にサインをいただきます。その書類を立川市薬剤師会に提出、受理されて初めてスタートできます。

実際の流れは、糖尿病療養に関する知識が十分でない方もいますので、オリエンテーションで「理解度調査」「自己効力感調査」を行います。患者さんには、日頃から気になっている生活習慣の中から改善の行動目標を設定していただき、薬剤師はそれを支援します。そのほか、通常の服薬支援時に検査値や副作用の有無、残薬状況などを確認し、30分ほどで聞き取った内容すべてを、同プログラムの開発、運用会社が提供する多職種で情報を共有するクラウド型データベースにコーチングレポートを入力します。

その後は、基本的に毎月1回、対面面談(4回以上)か電話相談を合計6回行います。面談ごとに患者さんと一緒になって目標の実施状況を振り返り、嗜好や生活状況、残薬確認を行いコーチングレポートに追記していきます。初めは比較的達成できそうな目標を立てていただき、患者さんが希望すれば、難易度の高い目標にもチャレンジされることを見守ります

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6ヶ月間のコーチングプログラム

目標を立て、達成したら一緒に喜び、半年間で成果を共に実感

このプログラムは、初年度の集中プログラムの後、3年間の継続支援が可能で、私が担当している実際の症例は2例で、そのうち1例は1クール完了しましたが、患者さんが希望され、さらに継続支援中です。

その継続中の方は、以前から服薬支援していた患者さん。現在70歳代前半の独居の男性です。「どういう食事をすれば血糖値が下がるか教えてほしい。仕事が多忙で外食やコンビニ中心で、休みの日は疲れて運動もできない」と話されていました。そこでプログラムへの参加をお勧めし、2022年10月からスタートしました。

まず初めに外食やコンビニの食事でも糖尿病がある人に効果的な食事法が必要だと考え、プログラム運用会社の管理栄養士さんと一緒に対応を考えました。ある日の患者さんの食事内容は、朝食にコンビニの昆布と鳥五目のおにぎり2個、昼食は社員食堂でかけそば、カキフライ3個、小ライスとキャベツの千切り定食、夕食はチンジャオロース、タラの芽の天ぷら、昆布、きんぴらごぼう、漬物の入ったコンビニ弁当、間食として砂糖たっぷりのコーヒー3杯、夜食が酢づけイカでした。

その情報を元に、まず、栄養士さんから1日の食塩量を6g以下に抑えることが大事ということ、朝食は鳥五目のおにぎりをツナマヨに変えることで油分を摂取し腹持ちが良くなり塩分量も削減、口直しにキュウリを1本丸かじりにすることで野菜の摂取にもなることをアドバイスしました。昼食のかけそばは汁を必ず残し、ご飯はゆっくりよく噛んで食べる。また、おかずにはソースや醤油をかけずに食べると素材が生かせますね――など、患者さんに分かりやすい形に変換してお話ししました。

写真を撮るのが好きだということでしたので、無理なく楽しみながらできる運動として、近所の公園でのウォーキングを提案しました。効果的なウォーキングの仕方も一緒に実演しました。すると早速実践してくださいました。

そのような形で、毎回、食生活や運動について2、3新たな目標を立てられ、達成できたら一緒に喜び、未達成なら一緒に反省し、次につなげるよう振り返りつつプログラムを進めました。半年間続け、体重は59.9kgから58.8kg、BMIが24.06から23.61、HbA1cが7.0から6.9、空腹時血糖が168から127に下がりました。患者さんは、この結果を喜び、気に入ってくださり、いまも継続支援中で、かかりつけ薬剤師の同意をいただきました。

「糖尿病なら、しんわ薬局が良い」と言われる薬局を目指す

本事業はパイロット事業で、立川市薬剤師会の会員薬局のうち約20軒の薬局が参加していますが、薬局から主治医に相談して候補の患者さんを決めて参加勧奨し、患者さんから同意が得られて初めてスタートするため、プログラムを実施しているのは12軒です。最終的には、このプログラムについて店舗内で情報共有するだけでなく、社内の近隣エリア店舗、会社全体、さらに立川市薬剤師会にも広げていければいいなと思っています。

また、当店では糖尿病のある人が多く来局されていますので、「糖尿病ならしんわ薬局が良い」と言われるよう、糖尿病に強い薬局を目指していきたいと思っています。そのためには店舗スタッフ間での定期的な情報共有と、各自の勉強が大事だと考えており、その取り組みの継続が糖尿病治療支援の質を上げていくと思います。他職種の方ともコミュニケーションを取りながら、その方々の考え方も取り入れて、患者さんの治療・服薬支援に生かしていきたいと考えています。