【POINT.2】将来的な発症を念頭に妊娠糖尿病になった人への啓発と支援が重要

小林 庸子 氏杏林大学医学部付属病院/薬剤部副部長

西東京での糖尿病対策で事務員含め多職種との交流、研修を推進

地域連携の重要性が指摘されていますが、当院の場合は年に1回の地域薬局との交流会や必要に応じて情報交換会も行っています。そのほか年に数回勉強会を開いています。それとは別に糖尿病に関して、臨床糖尿病支援ネットワーク(以下、ネットワーク)のなかで、薬局薬剤師を含め多職種との交流、連携をしています。当初は西東京臨床糖尿病研究会という名称でしたので、現在も東京は八王子までの西東京を中心に盛んに活動しています。そのネットワークでは開業医など医師、薬局薬剤師や病院薬剤師、看護師などのコメディカルのほか事務員も含め積極的に研修会を行っています。

例えば、診療所の事務員が「最近、あの患者さんちょっと様子がおかしい」「いつも糖尿病手帳を持ってきているのに、最近は忘れることが多いね」あるいは「いつもきちんとした格好をしているのに、最近はあまり綺麗じゃないね」などと患者さんの変化に気づくことが多く、医療職に限らず多角的な視点からの気付きは大切です。そこで事務員も西東京糖尿病療養指導士を取得するなど、幅広い職種が参加しているのが、このネットワークの特徴の一つだと思います。

私自身は糖尿病重症化予防に取り組む薬局薬剤師グループの活動にも関わっていますが、薬のことばかりに目が行ってしまっていると感じています。患者さんに応じて、「眼科にはちゃんと行ってますか?」と聞いたり、検査値を確認したり、必要に応じて検査を行ってもらうように後押しすることも大事な役割です。

また、例えば、20年間処方が変ってないということはあり得ませんし、次第に腎機能が悪くなるのも当たり前です。当院では検査値を処方箋の用紙に印刷してお渡ししていますが、そういうデータもしっかり見ていただきたいと思います。外来のことは薬局にお任せしています。微妙に悪くなった検査値を拾って、投与量の変更につなげるなど、フォローアップしていただければありがたいです。

いつも同じ処方だと、「もう、あなたに聞くことはないです」と患者さんから言われることもあると思いますが、例えば「災害に備えて何か対策していますか?」「災害対策として○○してください」など、何かしら話すネタはあります。前述のネットワークでは、「糖尿病災害時サバイバルマニュアル」を作成し、2021年1月に改訂版(第2版)を公表しました。

このなかで災害に備えて普段から糖尿病手帳やお薬手帳を持ちましょう。水と食料と薬を最低3日分は確保しましょうなど基本原則のほか、普段から準備することや配給される食品を食べるときのポイントなども紹介しています。

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「糖尿病災害時サバイバルマニュアル 第2版」から一部抜粋

一般社団法人 臨床糖尿病支援ネットワーク

https://www.cad-net.jp/index.php/news/detail/69

妊娠中からの啓発や健診への勧奨など薬局・薬剤師の役割は大きい

妊娠糖尿病啓発ポスター 一般社団法人 臨床糖尿病支援ネットワーク

当院では産科と婦人科とがあり、いま私は産科病棟を担当としています。実は妊婦の約12%が妊娠糖尿病と言われています。現状としては、妊娠中に次第に血糖値が上がり、インスリンも使いますので、その間のフォローアップは必要ですが、分娩後には正常値に戻ります。

その後、産科の1カ月検診には赤ちゃんと一緒に内科にも来られるのですが、既に血糖値も正常で、次回の内科予約は発生しません。しかし、妊娠糖尿病になった人が、将来的に糖尿病を発症する確率は、妊娠糖尿病にならなかった人の約7倍とされ、妊娠中に「将来、糖尿病になる可能性が大いにあります」と予言できます。

振り返ると私が内科を担当していた時、あるいは外来でよく見かけたのは、「20年くらい前に妊娠糖尿病と言われた気がする」「インスリンも使った気がする」という患者さんです。出産後、お母さん業に徹して、健診も受けず、ある日突然、目が見えなくなって眼科に行き、そこで血液検査すると大変な状態になっていることが判明し、糖尿病内科に紹介されてくることもあります。

そこで前述のネットワーク活動の一環として、既往歴に妊娠糖尿病の人を見つけ出すため2019年に啓発用ポスターを作成しました。

このポスターを見て「そういえば妊娠中に糖尿病と言われたな」「最近、健診に行ってないな」という人が健診を受けるきっかけになればと思っています。薬局では自費でHbA1cの測定ができるところがあります。お子さん連れの女性、例え二十歳のお子さんでも10人に会えば1人は、妊娠糖尿病だった可能性がありますので、何とか見つけ出して対応できればなと思っています。妊娠糖尿病は妊娠中だけのことではないと私は思っていますので、その啓発や健診への勧奨など含め、薬局・薬剤師の役割は大きいと考えています。

一方、各病棟には必ず糖尿病がある方や、インスリンを使っている方がいらっしゃいます。病棟薬剤師には、インスリンの使い方が正しいかどうか、確認してみたらどうかと促しています。これは薬局にも当てはまると思います。長く使っていて「ちゃんと使ってますよ!」と言う人ほど怪しいかもしれません。「いま、インスリンの使い方を確認するキャンペーンをしています」など、上手な話し方で、是非とも確認していただきたいと思います。

実は、糖尿病療養指導外来でも、この人はちょっと怪しいなという場合には、例えば「皆さんに聞いてますが・・」と持ち掛けると、患者さんも積極的に話してくれるようになります。しかし、病院では短い時間しか患者さんと接することはできません。日常生活を見ていただくのは薬局・薬剤師ですし、外来の患者さんは薬局にお任せしています。患者さんに色んな角度からアプローチして、しっかりフォローしていただきたいと思っています。