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【POINT.2】小さな変化に気付けば患者のQOL向上
竹内 尚子 氏湘南医療大学 薬学部 医療薬学科 地域社会薬学/准教授(博士<医学>)薬剤師
精神障害の包括ケアに薬剤師も参画
「にも包括」という言葉があります。これは2017年度から施行された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の略称で、厚生労働省では「精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労など)、地域の助け合い、普及啓発(教育など)が包括的に確保されたシステム」と説明しています。
地域包括ケアシステムは高齢者のためのもので、精神疾患患者は必ずしも高齢者ではないことから地域包括ケアシステムの中には組み込まれていません。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築(イメージ)
厚労省資料より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html
しかしながら、精神科の病床数を減らし平均在院日数を減らすために地域に帰すという仕組みをテコ入れするため、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムが構築されつつあります。そこで薬局や薬剤師がどうかかわるか、今、その指針を作りたいと活動しています。
そうした中で、薬局薬剤師の役割は精神疾患患者の悪化傾向をいち早く気付くことです。退院した後、薬物治療を正しく続けていてもストレスがかかり症状が悪化することもあります。それを早く見つけ対処することができるなら、再入院を防ぐこともできます。精神疾患、特に統合失調症は1ヶ月かかって悪化すると半年間ほどの入院が必要になるといわれています。早く見つけることができれば入院を避けられる、仮に入院しても1ヶ月程度で退院できるかもしれません。薬局薬剤師が普段から患者に接していれば、悪化の兆候を見抜くことができます。そこが「にも包括」の大きなポイントです。
ジェネラリストから専門薬剤師への自己投資を
薬局薬剤師には精神科医療に限らず、自分自身が興味を抱く領域を一つでもいいからもってほしいと思っています。もちろん最初はジェネラリストであるべきで、精神科にとらわれず小児科、婦人科など全ての科目の経験を積み重ねてほしい。そして、認定薬剤師を取得できたなら、そこから自分自身が本当に何をやりたいのかを考え、「自己投資」をしてほしいのです。医師が狭い領域のスペシャリストになってきているので、薬剤師も特定の領域のスペシャリストになる必要性を痛感しています。
長く精神科領域に携わってきた経験から、薬剤師の資質の一つとしてコミュニケーション力を高めてほしいのと、先にも触れた症状の悪化傾向など、患者の「小さな変化」に気付く薬剤師であってほしいと願っています。
ある薬剤師がこんなことを話していました。高齢者の治療では、変化がないことをちゃんと理解することが大切になる。毎週、変わっていないことを確認すること、変わっていたのなら良くない兆候かもしれないので、それをチェックできる気付きが必要になる――。精神疾患の患者は必ずしも高齢者とは限らないので、なおさら「小さな変化」に気付くことが大切になってきます。
薬局薬剤師でも他職種のスタッフでも、コロナウイルス感染症や少子化の影響で人とのかかわりが減り、「気付く」という感覚が上手に醸成されていないように思われます。結果として、気付くことが少なくなっています。しかし、それだと医療は上手く回らない。患者のために誰かが気付いて、を繰り返す。そして、的確に変化を医師や医療スタッフに伝え何らかの対応をする。医療の質の向上は、その繰り返しだと考えています。